「夫が亡くなったらiDeCoはどうなる?」法定相続人とは違う、死亡一時金の受取人の順位

iDeCoに関する質問で意外と多いのが、加入中の万が一の取り扱いについてです。iDeCoは、老後のために積み立てを行う口座ですが、老後に至る前に加入者本人が亡くなったら、積み立ててきたお金はどうなるのだろうか、という疑問にお答えしていきます。


確定拠出年金の3つの給付

確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)の給付は3つに分けられます。

1つ目が、60歳から75歳までの任意のタイミングで受け取る老齢給付です。これは、受け取る時期も加入者自身が選べますし、受け取り方も一括、分割、併用の3パターンから自由に選ぶことができます。ただし、60歳で老齢給付を受け取るためには、それまでに10年以上の通算加入期間が必要です。また60歳以降の新規加入の場合は、加入日から5年経過後より受給可能になります。

2つ目は、老齢給付を受け取らずに加入者が亡くなった場合に、その財産を遺族が引き継ぐ遺族給付です。金融機関は遺族から加入者死亡の届け出を受けると、資産運用を清算し、全額を遺族に払い出します。こちらは一括で支払われるので、以後、死亡一時金と呼びます。

3つ目は、老齢給付を受け取る前に重い障害を負った場合に、資産を引き出せる障害給付です。加入者からの請求で、一括、分割、併用で給付を受けることもできますし、あえて給付を受けないという選択も可能です。また給付を受けた後も、掛金の拠出を継続することもできます。障害給付については、次回詳しく解説します。

死亡一時金は誰が受け取れる?

確定拠出年金の死亡一時金には、確定拠出年金法で定められた受取人の順位があります。これは、民法の法定相続人の順位とは異なります。

第1位は配偶者です。この配偶者とは、婚姻関係にある配偶者はもちろんですが、事実上婚姻関係であった配偶者も含みます。ちなみに、事実婚も配偶者とみなされるのは、公的年金においても同じ扱いです。

第2位は、子・父母・祖父母・兄弟姉妹で、亡くなった方によって生計を維持されていた方です。子がいなければ父母が、父母もいなければ祖父母がというように、順番に受取人が変わります。例えば子が2人いる場合は、死亡一時金は2分の1ずつとなりますが、手続きは代表者1名が行い、資金も代表者に一括で支払われます。

第3位は、第2位以外で、亡くなった方によって生計を維持されていた親族で、第4位は第2位に該当しない子、父母、孫、祖父母および兄弟姉妹となります。

実際はあまり知られていませんが、死亡一時金の受取人はあらかじめ加入者が指定することが可能です。指定できるのは、配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹です。この際には生計維持関係の有無は問われません。万が一、加入者より指定した受取人が先に亡くなった場合は、指定がないものとして扱われます。

最近は価値観も多様化し、法律上の婚姻関係を結ばず、いわゆる事実婚を選ぶ方もいらっしゃいますが、その場合、配偶者は民法上の相続人にはなれません。確定拠出年金の死亡一時金は、死亡から5年以内であれば確定拠出年金法上の受取順位で、事実婚の配偶者も受取可能ですが、その期間を過ぎると民法上の相続として扱われます。したがって、事実婚の配偶者に死亡一時金を渡したい場合は、受取人指定をしておくのも重要です。ただし、その場合でも法定相続人ではないので、後述する税金上の非課税枠は利用できません。

確定拠出年金の死亡一時金は確定拠出年金法で定められているため、その他の相続財産のように遺言で受取人を指定することはできません。同様に相続財産ではないため、相続放棄をしても死亡一時金は受け取ることができます。

死亡一時金請求の手続き方法

では、死亡一時金請求の手続きについてみていきましょう。例えば、夫がiDeCo加入中に亡くなり、妻が手続きをすることになったとします。まず妻は、iDeCoの金融機関に死亡届を提出します。その際、死亡診断書の写しなどの書類の添付が求められます。

金融機関は届け出を受理すると、亡くなった方の資産の清算を行います。例えば、投資信託で運用していた場合はそれらを売却し、現金化し手数料を差し引いて、受取人の方の口座へ支払います。届け出を出してから支払いまでは、通常2カ月くらいのようですが、書類の不備などがあれば、長引きそうです。なお、精算の手続きの日時は指定できません。

ちなみに、加入者がiDeCoを老齢給付として分割で受け取っていた途中で亡くなった場合は、残金が一時金で遺族に支払われます。その場合も、遺族が加入者死亡の届け出を金融機関に提出します。

死亡一時金を受け取った妻は、それを相続財産として手続きを行います。この際、相続税法上死亡一時金は「死亡退職金」とみなされるので、500万円×法定相続人の数で算出した金額までは非課税となります。例えば、妻と子どもが2人となれば、法定相続人は3名ですから、死亡一時金が1,500万円までは非課税で受け取れるという訳です。この計算は、相続発生から3年以内に支給が確定した場合です。

例えば、夫がiDeCoに加入していることを妻が知らず、死後3年以上が経過して何かの拍子でiDeCoの資産があることを知ったとします。その場合、夫死後もiDeCoの運用は続いていますので、金融機関は妻からの届け出を受領したタイミングで清算を行います。死亡一時金を受領した妻は、やはり税金の手続きを行います。死亡から3年が経過すると、妻の一時所得として税金の計算が行われます。

また、死亡から5年が経過しても死亡一時金の請求がなければ、該当する遺族はいないとみなし、死亡した方の相続財産とみなされます。その場合は通常の相続財産として相続人が請求しますが、その後もだれも請求しなければ、法務局に供託され、いずれ国に回収されます。

実は死亡一時金の対象となるお金には、自動移換された資金も含まれるのですが、そもそも加入者も手続きを忘れていたお金ですから、家族がそのことを知って請求するのは難しいでしょう。

公的年金から支給される遺族年金とは?

私たちが加入している公的年金からも、万が一の際には遺族に遺族年金が支給されます。国民年金からは遺族基礎年金が、厚生年金からは遺族厚生年金が支給されます。しかし、確定拠出年金と異なり、遺族がその年金を受けるには、被保険者の年金加入期間が要件を満たしているのかどうかが問われます。

例えば、遺族年金が支給されるには公的年金に加入すべき期間のうち3分の2以上の保険料納付済み期間が必要です。たとえば30歳であれば、20歳からの年金加入義務期間は10年(120カ月)ですから、そのうち80カ月以上は保険料を支払っていなければなりません。

転職を繰り返したり、正しく年金保険料を支払っていなかったりすれば、万が一の時に遺族は遺族年金を受け取れないのです。このような状況に陥らないために、保険料を納めるのが経済的に厳しい場合は免除や猶予といった特例が定められていたり、亡くなる直近1年間に保険料の未納がなければ特別に遺族年金を給付する救済措置があります。

遺族基礎年金は18歳以下の子を持つ配偶者か、18歳以下の子に支給されます。子の年齢は18歳の3月末までが対象なので、高校卒業までと理解しておけばよいでしょう。また、配偶者は確定拠出年金の死亡一時金同様、事実婚も含まれます。

遺族基礎年金の金額は、子どもの数で決まります。仮に子ども2人とその母親が遺族であれば、遺族基礎年金は年間約120万円で、上の子どもが高校を卒業するまで支給され、その後、年間約100万円に減額され、下の子どもが高校を卒業すると終了します。

遺族厚生年金は、主に配偶者に支給されます。配偶者が女性の場合は、原則終身保障ですが、配偶者が男性の場合、被保険者死亡時に55歳以上というルールがあります。例えば、女性会社員が亡くなった時、夫が35歳というケースでは遺族厚生年金は支給されません。

その場合、遺族厚生年金を受け取る権利は子に移ります。ここでいう子は先述通り18歳以下の子ですから、該当がなければ今度は親に権利が移ります。親は被保険者死亡時55歳以上でかつ生計一時関係にある場合となります。

遺族厚生年金の金額は、被保険者が亡くなるまでの厚生年金加入期間と、支払った保険料に応じて決まります。子どもがいる妻の場合は遺族基礎年金の終了後から、夫死亡時に40歳以上の子どもがいない妻の場合は夫の死後、65歳までの間中高齢寡婦加算という特別な手当も支給されます。

若くても万が一を考えることは重要

若い年代で亡くなる確率は数%であったとしても、やはり万が一に備えておくことは重要です。確定拠出年金に関しては、そもそも金融機関から自発的に死亡一時金の連絡は来ませんので、遺族の手続きが必要です。

公的年金の遺族年金は、確定拠出年金の死亡一時金と異なり、被保険者の年金加入歴などにより金額が異なります。そして、こちらも届け出をしないと受けられません。

自らが動かないといけないという現実とともに、遺族の十分な理解も不可欠です。そのため資産の棚卸をし、明細をまとめて家族と情報を共有したり、家族が困らないよう資料をまとめたりしておくことは重要です。それは万が一の備えだけではなく、資産形成の目標達成のためにも役に立ちます。

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