
青森県内のタクシー運賃が2020年2月以来、約3年ぶりに値上げされることになった。背景にあるのは、新型コロナウイルスの影響による乗客減や燃料価格高騰に伴う事業者の経営悪化と運転手不足。値上げなしでは運転手の待遇改善が難しく、コロナ禍で離職した分を取り戻せないという。人手を確保できなければ車両の稼働数を増やすこともできず、コロナ禍からの売り上げ回復は厳しい。「自助努力の限界だ。どうしても値上げが必要」。県内事業者は窮状を訴える。
タクシー業界の苦境は全国共通で、東北各地でも運賃値上げの動きが相次ぐ。
東北運輸局によると、福島県では21年11月、岩手県は22年12月に値上げされた。秋田市(秋田県A地区)と山形県の2地区、仙台市も既に値上げが必要と判断されており、同局の担当者は「複数の地域から値上げ申請が(相次いで)来ることはあまりない」と語る。
青森県タクシー協会によると、加盟事業者の22年度の月別売上合計は、コロナ禍前の19年度比2~3割減で推移。ウクライナ危機を受けた燃料価格高騰も重くのしかかり、金融機関からの借入金や行政の補助金でしのいでいるという。
県内ではもともと、運転手不足と高齢化が深刻化しており、乗客減で歩合制の収入が減少し、離職者が増加したことも影を落としている。
同協会の加盟事業者約90社の運転手は計約2700人。下山清司会長(北星交通代表取締役会長)は「毎年80人の新規採用に対し、離職者が約280人。単純計算で『運転士』が200人ずつ減っている。このままでは誰もいなくなってしまう」と将来を案じる。
厚生労働省の統計調査を基にした全国ハイヤー・タクシー連合会の集計では、タクシー運転手の平均年収は約280万円で、全産業平均より270万円ほど少ない。県内のタクシー事業者は「インバウンド(訪日客)対応のためにも、翻訳機能を備えたタブレット端末の操作に慣れた若い人材を採用したい。そのためには待遇改善が必要」と言う。
運賃の値上げはさらなる客離れを招くとの見方があるが、県タクシー協会によると、東京など先行して値上げした地域では利用者数にほとんど変化はないという。通院でタクシーを利用しているという青森市の無職女性(80)は「いろんなものが値上がりしている中で、タクシー料金だけ上げないで-というのは気の毒な気がする。最初は驚くかもしれないが、これまで通り使う」と話す。
青森市の成長タクシーの成田康太郎社長は、人口減少や自家用車の普及、企業や官公庁の経費削減などを背景に、タクシー業界はコロナ禍前から売り上げ低迷が続いていると説明。「季節による変動料金制や乗り合いタクシーの導入など、1台当たりの労働生産性を上げていかなければならない」と、値上げ以外の抜本的な対策の必要性も強調する。