「川崎雄哉カップ・上五島トレイル」初開催 109人縦走 島民の“おもてなし”も満喫

山道を駆け上がるランナー=新上五島町、城山山頂

 長崎県新上五島町新魚目地区で22日、川崎雄哉カップ・上五島トレイル2023(同町アイランドワーケーション実行委主催、町共催)が初めて開催され、ゲストランナーを含め島内外から109人が参加。福岡県の会社員、鬼塚智徳さん(42)が1時間37分35秒のトップでゴールし、初代王者に輝いた。

 約18キロのコースは、日本トレイルランニング界のトップ選手、川崎雄哉さん(38)=同町出身、静岡県在住=が監修。上五島の急峻(きゅうしゅん)な地形を生かし、一気に山へ駆け上がって縦走する。美しい海や島々のパノラマに出合え、初心者でも挑戦しやすい距離。参加受け付け開始早々に申し込みが殺到するほど人気を集めた。

ステージでにぎったすしが振る舞われた=新上五島町、有川総合文化センター

 前日には同町有川郷の有川総合文化センターで前夜祭があった。ステージでは地元産のマグロやヒラメ、ミズイカ、ブリをネタにしたにぎりずしショーが始まり、参加者らにふんだんに振る舞われるなど、趣向を凝らした上五島グルメに会場は沸いた。

 石田信明町長は「上五島の複雑な地形は絶好のトレイルコース。今後、大会を進化させていきたい」とあいさつ。川崎さんは「低い山が多いが景色は素晴らしい。地元のみなさんの“おもてなし”も満喫してほしい」と呼びかけた。

 大会当日は曇天。気温4.4度。丸尾郷の新魚目総合体育館前を午前8時に一斉スタート。北上して似首(にたくび)峠周辺から番岳(標高367メートル)に駆け上がる。南下しながら浅子山(同203メートル)、城山(同214メートル)まで縦走したところで振り返ると、眼下に有川湾が広がる絶景が待っている。選手からは「すごい」「きれい」など感嘆の声が上がった。エイドステーションでは五島うどん、かんころもち、チーズケーキなどを用意。補給して力を取り戻した選手は再び番岳を目指し、駆け下りてゴールの同体育館へ。

 レースを制した鬼塚さんはトレイル歴10年以上。「短めのコースでスピードレースになり、楽しめた。テクニカル面も面白かった。前夜祭、エイドステーション、ゴール後のグルメも盛りだくさんだし、沿道からの応援や景色もよかった。レース以外でも来てみたい」と満足そうに語った。

◎山が海に注ぐ絶好のトレイル / 記者ルポ

 海岸から急斜面の山道を登ると絶景が待っていた―。新上五島町で初めて開催された上五島トレイル。島の雄大な自然と景観を堪能しようと記者も走ってみた。
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 コースを監修した川崎雄哉さんと記者が出会ったのは2014年12月。本県で初めて開かれるトレラン大会のコースを試走するイベントだった。トレランを始めたばかりだった市民ランナーの川崎さん。急登を全部走っていたのが印象的だった。

 川崎さんは翌年4月の本大会で優勝。「これから全国の大会に出て上を目指して行きたい」と取材に応えていたが、翌16年、国内トップレベルの大会、ハセツネカップを制し、一気にトップランナーの仲間入り。長崎県人として、トレランを楽しむ仲間として誇らしく、うれしかった。

 そんな川崎さんの名前を冠した大会が古里で開かれると聞き、少しでも応援したいとの思いで参加を決めた。過疎と高齢化が進む離島。人を呼び込んで地域活性化につなげようと、新上五島町がトレランの国際大会で日本代表に選ばれた経験がある川崎さんに依頼して企画した。県内の離島でマラソン大会はあるが、トレランレースは初めて。これからの展開も楽しみだ。
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 午前8時に新魚目総合体育館前をスタートして車道を北上すると、しばらくして右手に海が見えてきた。リアス海岸の荒々しい岩に、波が打ち寄せている。海が間近で、朝焼けに輝く半島と島々が神々しい。トレイルレースでは斬新な光景だ。

 急な階段から急登の山道へ。ロープを頼りに一気に登る。トレイルはよく整備され、走りやすい。昨年9月まで山中は生い茂ったやぶだったが、それから毎週スタッフが山に入り、やぶを払ったり、倒木を除去したりしてきたという。道案内の目印も多く、初心者でも迷うことはなさそうだ。

 番岳に到着して振り返ると、北端の津和崎まで細く続く半島がよく見えた。空気が澄んでいて、遠くは平戸、生月、佐世保、長崎まで見える。その後、急斜面を下りて浅子山へ。林道を経て車道に出た。コース半分は車道だという。

 参加者はどんな人たちなのか。並走して尋ねてみた。長崎市内から帰省した会社員、地元の小学校長、4泊5日の島旅を楽しむという福岡県の女性、トレイルの大会は初めてという九州大ワンダーフォーゲル部の女子学生…。さまざまな人が山と〝格闘〟し、苦しみながらもレースに向き合っていた。

 再びトレイルに入り、息を切らせて頂上に駆け上がると、コース一の絶景ポイント、城山に出た。五島うどん、チーズケーキ、かんころもち…。エイド食を全て味わい、スタッフの温かい対応に元気をもらう。その後、再び番岳で景色を楽しんだ後、急斜面を下る。 木々の間から海が見え、「ザー、ザー」と波が打ち寄せる音が聞こえてきた。急坂を下りながら、海に突っ込んで行くような感覚になった。「上五島は山が海に注ぎ、絶好のトレイルコース」(石田信明町長)との言葉が頭に浮かぶ。

 最後は五島市の奈留島から参加したマラソン愛好家の男性と一緒にゴールした。約3時間の山旅だったが、名残惜しく感じるほど魅力的だった。

 大阪から3年ぶりに帰省して参加した会社員、下辺鏡次郎さん(45)は「番岳を登って振り返ると、美しい島の景色が眼下に広がって、涙が頬を伝った。生まれ育った島がこんなににぎわっているのがうれしかった」と振り返った。

 今後、どんな大会に成長するのか。楽しみが一つ増えた。

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