情報整理し発信力養う 岡山県NIE推進協が実践報告会

(上段左から)橋本直美教諭、石原英司校長、小川弥生講師(下段左から)是沢晋哉教頭、小川美穂教諭

 岡山県NIE推進協議会(会長・加賀勝岡山大上席副学長)は昨年12月27日、岡山市北区柳町の山陽新聞社で県内のNIE実践指定校による実践報告会を開いた。指定2年目の笠岡市立新山小、赤磐市立磐梨小、玉野市立荘内小、岡山理科大付属中、県立高梁城南高の5校が発表。実践担当教員らは、児童生徒が新聞を活用して情報を集め、整理し、自分の意見を発信する力を養った成果を報告した。要旨を紹介する。

 SDGs学習に生かす

 笠岡市立新山小 橋本直美教諭

 情報を収集し整理する力を育みつつ、特にSDGs(持続可能な開発目標)の学習に生かそうと考え、NIE教育に取り組んだ。

 さまざまな教科で新聞を活用していくことをカリキュラムに明記し、教職員への意識付けをした。

 週1回15分の「NIEタイム」を設け、低学年では写真などを見てお気に入りの記事を探し、中学年は興味を持った記事をワークシートにまとめた。高学年は購読している小学生向け新聞電子版をデジタル端末で見て、SDGsに関する記事の切り抜きをした。そこから発展して、端末を使った新聞作りにも挑戦した。

 週末課題にはSDGsに関する記事を使い学年に対応したプリントを作った。継続的に記事を読む習慣が定着したことで読解力が向上し、時事問題に関心を持つ児童が増えた。課題を提出した児童に「ごほうび券」を贈る仕組みで、意欲的に学習に取り組めている。

 電子版新聞購読などにより「新聞を週1~3日読む」児童は5年生90%、6年生100%となっており、児童自ら考え取り組む姿勢につながっている。今後もNIEタイムを継続することで新聞を身近に感じるようにし、文章や新聞を書く経験を繰り返して自分の意見を持つことを促したい。また教職員も新聞を読む姿を見せ、授業でしっかり活用していきたい。

 投稿掲載で自己肯定感

 赤磐市立磐梨小 石原英司校長

 磐梨小は2019年度の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)で「書く能力」に課題があると分かり、書く活動の充実を図った。20年に外部講師による作文教室で新聞投稿を始め、21年度からNIE実践指定校となった。

 まずは新聞を身近に感じる環境をつくった。児童玄関と5、6年生の教室前、図書室にNIEコーナーを設け、記事を掲示した。22年度はNIEを学校経営アクションプランの重点目標とし、ICT(情報通信技術)機器や新聞を使った学び方を広げると同時に、新聞投稿や掲示などにより児童が「承認」される場面を効果的に取り入れた。

 どの学年も授業で時事問題を扱うと「新聞にあった」と声が上がるなど、NIEコーナー設置による学習の広がりと深まりを感じた。学習調査で磐梨小の6年生は「週に1~3回以上新聞を読んでいる」という回答が、6%(19年度)から25%(22年度)に高まった。また岡山県の学力テストで国語の成績が上がった。

 6年生は「子ども議会」の前に市の課題について新聞で調べ、ごみ問題やにぎわい創出について鋭い観点から議論できた。新聞投稿は学校全体に広がり、山陽新聞「ちまた」欄への掲載回数が増えて地域の方々にも喜ばれ、児童の自己肯定感や学校の一体感の高まりにもつながっている。

 新聞掲示で交流広がる

 玉野市立荘内小 小川弥生講師

 「NIEでつなぐ『情報・社会・人』」をテーマに実践した。1年目は教室内に新聞コーナーを設置。1人1台配備のデジタル端末などを使い、記事や考えを交換した。2年目は全校児童が使いやすいように、新聞コーナーを児童靴箱近くに設けた。高学年間にとどまりがちだった交流を全校でできるよう心掛けた。

 6年生から「総合的な学習の時間で『食』を学ぶ5年生に、記事や自分たちが前年度に学んだことを伝えたい」との声が上がった。食の問題や地元食材などの情報をデジタル端末で共有。学年間交流になり、主体的に動く姿を見ることができた。

 修学旅行新聞を読んでもらいたいという声も出たので新聞コーナーに掲示。校内放送で「低学年は絵を、中学年は見出しや記事の書き方を見てほしい。高学年は伝えたいことは何か考えて」と呼び掛け、盛況だった。ふせんで感想を貼れるようにしたり、地元の園児や中学生に見てもらう機会もあり、新聞が人と人のつながるきっかけとなった。

 実践の中心だった6年生の自ら提案する姿は他学年の刺激となった。交流により他の人の考えを知ることで、よりよい人間関係作りにつながったことは大きな成果だ。これからも必要な情報を選択し、社会的事象に関心を持って自分のこととして考えられる児童の育成を目指したい。

 コラム読解 社会に興味

 岡山理科大付属中 是沢晋哉教頭

 「主体的・対話的な深い学び」を実現する土台となる論理的な思考力を養うため、NIEを実践した。

 国語では山陽新聞に投稿文を書き、新聞記事を読んで100字コラムを書くコンクールに応募。自主的に山陽新聞に投稿する生徒も現れ、コンクールでは上位入賞を果たした。

 読解力をつけるために、山陽新聞のコラム「滴一滴」を継続的に読ませた。電子版の記事をストックしておき、担任が週2本ずつ選んで生徒に配布。生徒は記事の重要なポイントを読み取り1文にまとめるワークを行った。生徒からは「話題になっていることが書かれていて読みやすい」「自分の興味のなかった分野に興味を持つことができた」という感想が得られた。

 総合的な学習では、デジタル端末を使い、記事の内容や自分たちの考えを分かりやすくまとめて紹介する発表を行った。SDGs(持続可能な開発目標)に関する記事を選び、外国人教員の指導を受けながら英文で見出しと記事の要約を作ることにも挑戦した。

 実践を通じ、世の中の出来事に興味を持つ生徒が増えた。記事を利用した学習にはデータベースが便利で全国紙2紙を利用しているが費用負担の面は課題だ。今後も環境問題など時事問題への関心を高め、自分の考えを論理的な文章にまとめる力を養っていきたい。

 読む力、書く力高まる

 県立高梁城南高 小川美穂教諭

 高梁城南高は電気科、デザイン科、環境科学科からなり、地域に根差す専門教育の拠点校を目指している。コミュニケーション力を高めるため、読解力、知る力、表現力を身に付けることをNIEの目標とした。事前アンケートで生徒の新聞購読率は約40%、新聞から情報を得ているという生徒は3%だった。

 まず新聞の置き場所を図書館から、生徒の目に触れる職員室前の配布ボックス横に変えた。新聞に親しむために記事の掲載箇所を探すゲームをし、山陽新聞のコラム「滴一滴」を書き写し、「社説」の感想を書いた。記事を読んで自分の考えを書くワークシートにも取り組んだ。生徒自身が気に入った記事を使いワークシートを作る活動もして、深く読む力がついた。紙とICTの両方を使ったところ、文字を拡大できるのでICTの方が使いやすいという生徒が多かった。

 国語のテストで記事を読んで作文を書く問題を継続的に出し、考えを書く力が高まっていると感じられた。学校の特色を中学生に紹介する新聞を作ったり、山陽新聞の記者のアドバイスを受けて卒業生のインタビュー記事を書いたりもした。アンケートで今後も新聞を活用したいという生徒が多かったが、8割は紙ではなくデジタル版を希望した。容易にアクセスできる環境づくりが課題だ。

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