まとまった資産があるがゆえのリスクとは? シニア世代が考えたい資産形成と資産運用の違い

リタイヤが視野に入る60歳は、資産運用においても大きな分かれ道を迎えます。

そこで、CFPでシニア投資コンサルタント・西崎努 氏の著書『60歳を過ぎたらやってはいけない資産運用』(アスコム)より、一部を抜粋・編集して資産形成と資産運用の違いについて解説します。


「資産形成」と「資産運用」の違い

現在、世の中にはさまざまな金融商品・金融サービスがあります。

20年前はもちろん、10年前と比べてもそのバリエーションは大幅に増えました。

中にはとても使い勝手がよく、便利なものもあります。しかしその一方で、 非常に問題が多く、あちこちでトラブルを引き起こしているものもあります。

そこで、シニア世代が投資や運用で手を出してはいけない金融商品・金融サービスを具体的に取り上げていきます。

もちろん、銀行や証券など金融機関が扱っている商品・サービスは、法律の規制の範囲内で作られ、販売されているものです。怪しげな投資話とは違います。その点ははっきりさせておかなければなりません。

問題は、投資家の目的や状況にまったく合っていない商品やサービスが金融機関からすすめられ、投資家もそれを購入してしまっていることです。 投資家の目的や資金の性質などによって、適切な商品・サービスは異なります。Aさんにはピッタリな商品・サービスが、Bさんにとってはまったく不要で、むしろデメリットでしかないということも当然あります。

若い世代とシニア世代の違いはその典型です。

若い世代は多くの場合、まとまった資産はまだないけれど、これから収入も増えていくし、20年、30年かけて「資産形成」をしていこうと考えています。そのためには多少リスク(株式など投資資産の価格変動)をとりつつ、長期での資産形成に向いた商品を利用します。具体的には株式投資や、株式への投資を中心とした投資信託です。積立投資なら低コストのインデックス投信を利用することが望ましいでしょう。

一方、シニア世代は現役をリタイアし、これまでの貯蓄や退職金などのまとまった資産でゆとりある生活を楽しみながら、介護や病気などの万が一にも備えたいと考えています。そんな シニア世代にとっては、積極的に資産を増やすことよりも、安定運用が大事です。安定運用とは、高いリターンや大幅な値上がり益を追求するのではなく、リスクをできるだけ抑えようとする運用です。

そのため、基本的には債券投資を中心とした資産配分を心掛け、運用資金の現金化も想定しつつ運用することが求められます。

さらに、シニア世代は年齢のことも考慮してできるだけ「シンプルな投資」を心掛け、「管理しやすい状況」にしておくことも大切です。

それなのに、シニア世代が若い世代向けの商品やサービスに手を出したり、投資資産の配分を間違えたりしているケースが多々あります。 「資産形成」と「資産運用」の違いをよく認識しておかなければなりません。

NISAやiDeCoをやったほうがいいのか?

ところで、シニア世代のみなさんからは「テレビや雑誌でよく聞くNISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)を自分たちもやったほうがいいのか」という相談もよく受けます。

結論からいうと、無理にやる必要はないと思います。 投資の経済的効果からすると利用するメリットはあります。しかし資産管理の側面から見ると、そのメリットが本当に必要かは疑問です。 保有資産の金額が大きいと、NISAやiDeCoの投資金額では資産全体への影響が少なく、管理の手間が増えることのデメリットのほうが大きい場合もあります。

例えば、NISAには次の2つがあります。(2022年11月現在、ジュニアNISAは除く)

(1)一般NISA…株式・投資信託等を年間120万円まで購入でき最大5年間非課税で保有

(2)つみたてNISA…投資信託等を年間40万円まで購入でき最大20年間非課税で保有

ただし、「つみたてNISA」で投資できるのは、金融庁から指定された投資信託とETF、216本(2022年10月末時点)に限られます。

そもそもNISAもiDeCoも税制上の優遇を受けながら長期にわたって資産形成する若い世代に向けた制度です。 シニア世代にとって大事なのは長期にわたっての資産形成ではなく、まとまった資金を安定して運用することであり、別の視点で考えたほうがいいと思います。

利用する場合は、NISAで損失が出ても他の投資との損益通算の対象外となることや、少額での投資でも手間と感じずに対応できるかがポイントになります。

まとまった資産があるがゆえのリスク

もうひとつ、シニア世代が注意しなければならないのは、まとまった資産(余裕資金)があるがゆえのリスクです。特に注意いただきたいことを2つご紹介します。

1つ目は、まとまった資産がある人の安定運用に関する情報は手に入りにくく、比較検討が難しいことです。

これから資産を作っていく人向けの情報は、メディアに溢れています。投資の仕方や商品の良し悪しに関する情報が、多方面からさまざまな視点で公開されています。

いわゆるマス層(金融資産3000万円未満)を対象とした情報です。

しかし、アッパーマス層(金融資産3000万以上5000万円未満)、準富裕層(5000万円以上1億円未満)になると母数がかなり減り、富裕層(1億円以上5億円未満)になるとさらに少なくなります。超富裕層(5億円以上)向けとなると一般的には非公開な情報がほとんどです。

金融機関の本支店では、主に準富裕層から富裕層を対象に金融サービスを展開しています。

このあたりの層への情報は金融機関からの発信が中心で、第三者的な情報がほとんどありません。

そのため、相談相手も金融機関が中心となり、提案の比較をすることが困難となります。私たちのように金融機関で運用提案の経験があるIFA(独立系フィナンシャルアドバイザー)にご相談いただければ、ほとんど解決する問題なのですが、そもそもIFA自体がまだまだ知名度が低い存在のため、相談相手として選択肢に入ることが少ないのが実情です。

2つ目は、見た目に惑わされやすいというリスクです。そもそも投資に回すほどの余裕資金がない若い世代では手が出せないような商品・サービスでも、シニア世代であれば比較的簡単に買えたりします。銀行や証券会社なども効率よく手数料が稼げるので、熱心にすすめてきます。 シニア世代をターゲットにした商品やサービスが次々に生み出される傾向もあります。

これらの商品やサービスを提案する際の資料やパンフレット、広告などはかなり力を入れて作成されています。その分、 商品やサービスが実情以上に素晴らしいものに感じやすくなっています。

そもそも日本の個人向け資産運用ビジネスは、お客様からの手数料で成り立っています。コストをかければかけるほど、お客様にかかる費用負担は増えていきます。もちろん必ずしも高い費用を負担する商品やサービスばかりではありません。マス層に比べて取引金額が大きいからこそ、費用をかけても会社として利益が出ることに不思議はありません。

大切なのは、自分が納得できる適切な費用の範囲内かということです。 広告やパンフレットの見た目の良さから期待値を上げてしまって、費用が高くてもよしとするようなことはやめましょう。

日本で個人(家計部門)が保有する金融資産は、日銀の発表によると2021年度末(2022年3月末)時点で2005兆円となり、はじめて2000兆円を超えました。

日銀のデータでは年代別の保有割合まではわかりませんが、第一生命経済研究所の推計では、金融資産全体の7割近いとする説もあります。 単純計算で1400兆円もの金融資産を60代以上のシニア世代が持っているのです。

このお金を目掛けて、銀行も証券会社も保険会社も不動産会社も、目の色を変えて営業を仕掛けてきます。 テレビや新聞には、シニア世代のお金を狙った広告が溢れていることに気づくでしょう。

60歳を過ぎたらやってはいけない資産運用

著者:西崎努
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