チリの美味しいミートパイを食べたら、フェスを主催する事になった 日本人が始めた「難民移民フェス」、在日外国人の現状を知る入り口に

フェスで提供されたクルド料理=難民・移民フェス実行委員会提供

 政情不安などで母国を離れた外国人の境遇を知ってもらう異色の「フェス」が、首都圏で開かれた。その名も「難民・移民フェス」。2022年11月に埼玉県川口市の野外広場で開かれた第2回は、雨にもかかわらず日本人を含めた多様な国の人々が交流を楽しんだ。定期的な開催を望む声が多く、イベントとして大きく育ちそうな気配もある。
 なぜ難民や移民をテーマにしてたフェスを思いたったのか。主催者に聞くと、チリからの移民で、シェフとして働いていた男性が作ったミートパイがきっかけだった。その美味しさに感激し「もっとみんなに食べて、知ってもらいたい」と考えるようになった。日本には想像以上に多様な国の人が暮らし、それぞれが「母国の味」を再現できる。ただ、中には入国管理当局から就労を禁止され、腕を振るえない人もいる。そこで発案したのがさまざまな特技を持ち寄る「フェス」だった。(共同通信=大森瑚子)

色鮮やかな民俗衣装の参加者=難民・移民フェス実行委員会提供

 ▽土砂降りでも大盛況
 2022年11月末の祝日。連日穏やかな秋晴れが続いていたが、この日の川口市はあいにくの土砂降りで気温も冷え込んだ。主催者は「あまり人が集まらないのでは」と気をもんだが、開場するとすぐに雨具を身につけた参加者でいっぱいになった。
 広場には、異国のスパイスの香りが立ちこめた。ミャンマーのカレー、ベトナムのフォーなど参加者それぞれの母国の味を再現した屋台や、雑貨店などが立ち並んだ。
 フェスに協力した「在日クルド人と共に」によると、川口市と周辺にはトルコ政府の迫害から逃れて来日した約2千人のクルド人が暮らす。日本でクルドの家庭料理を食べられる機会は少なく、多くの日本人が屋台に行列を作った。
 クルドの子どもたちによるダンスや、アフリカンドラムのセッションなども披露され、会場は和気あいあいとした雰囲気。会場内には弁護士による法律相談コーナーや、医療関係者による健康相談ブースも設置。難民申請や、日本での出産手続きの相談に応じた。

写真撮影の禁止を呼びかける看板=難民・移民フェス実行委員会提供

 ▽危険と隣り合わせの現実、撮影は原則禁止
 一方で写真や動画の撮影は原則禁止。運営側は至る所に注意喚起のビラを掲示し、賑わうフェスの雰囲気とのギャップは大きい。参加者には母国で迫害を受ける立場の人もおり、本人の居場所が知られることで、家族に危険が及ぶ可能性が排除できないからだ。
 2021年にクーデターが起きたミャンマーでは、現在も軍による市民への弾圧が続く。群馬県高崎市から訪れたミャンマー人の女性は「思わぬきっかけで、祖国にいる家族が危険にさらされないよう気をつけている」と心配そうに語った。

写真撮影禁止を呼びかけるボード

 

金井真紀さん

 ▽きっかけは「エンパナーダ」との出会い
 実行委員の1人、金井真紀さんは普段、文筆家・イラストレーターとして活動している。日本に住む世界の人々にスポットを当て、ユーモラスに描く作品が魅力だ。
 難民移民フェスのきっかけは、日本に住むチリ人男性が作った「エンパナーダ」と呼ばれるミートパイとの出会いだった。
 男性は日本のレストランで働いていた。しかし、東日本大震災で新店舗の計画が頓挫したのをきっかけに就労ビザを失った。母国の治安が安定せず帰国も日本での就労もできない状況だった。そんな中、生活を支援してくれる人らに振る舞ったミートパイが人づてに金井さんに届いた。
 金井さんは「なんておいしいんだ。みんなに食べてほしい」と考えた。男性には支援も必要だ。デモや政治的な活動は参加者が限定される懸念があった。「それぞれが得意な物を持ち寄って集まる場を作れたら」。知人やさまざまな国籍の人たちに声をかけ、2022年6月に東京都練馬区での初開催を成功させた。

 

音楽を奏でる人も=難民・移民フェス実行委員会提供

 ▽フェスを入り口に、外国人の現状を知って
 すぐに「2回目はいつ?」と聞かれ、開催場所を探し始めた。「在日クルド人と共に」の協力を得て川口での開催が決まった。第3回も前向きに検討し、場所探しを進めている最中だ。
 「難民・移民フェス」と銘打った金井さんだが、難民の現状には大きな危機感を持っている。日本の難民認定率は欧州諸国などに比べ非常に低いからだ。「食べ物や文化を入り口に日本で暮らす外国人が置かれている背景に目を向けてもらえたら」と話す。「『フェス』だからこそできる肩肘張らない挑戦を続けていきたい」

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