勝田貴元を襲った二度の車両トラブル。最終SSではデフが破損「リヤの駆動が一気に抜けた」/WRC開幕戦

 シリーズ8冠王者のセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリス・ラリー1)が前人未到の大会9勝目を飾って幕を閉じたWRC世界ラリー選手権第1戦ラリー・モンテカルロ。日本人ラリードライバーの勝田貴元(トヨタGRヤリス・ラリー1)は同イベントで総合6位入賞を果たし、2023年シーズンの開幕戦からドライバー選手権ポイントを獲得したが、戦いの中では二度にわたってメカニカルトラブルに見舞われた。これらの状況についてラリー・モンテカルロ後の合同オンライン取材会に登場した勝田に話を聞いた。

 今シーズン、勝田がトヨタのワークスチームに昇格し、オジエとサードカーをシェアしつつ4台目のGRヤリス・ラリー1も活用して年間の全13戦に出場するのは既報のとおりだ。1月19~22日に開催されたラリー・モンテカルロはその初戦。勝田はチームメイトであるカッレ・ロバンペラ、エルフィン・エバンス、そしてオジエの3名とともに伝統の一戦に臨んだ。

 事前のテストから「クルマのフィーリングが良かった」と語った勝田は、競技初日の夜に行われたSS1で4番手タイムを刻む好スタートを切る。ところが、続くSS2のスタートからまもなく、ひとつめのマシントラブルが勝田を襲った。

「スタートのところでトラブルが発生し、そこから20kmを超えるステージをハンドブレーキが使えない状態で走らざるを得なくなりました」と勝田は初日を振り返った。

 彼にとって不運だったのは、スタート直後に問題が生じたこと。さらに当該のSS2が今大会中もっとも多くのヘアピンカーブを有するステージだったことだ。通常、ハンドブレーキはR(半径)の小さなコーナー、とくにヘアピンで用いるため相当な痛手だったはずだ。これらの要因が重なり勝田はSS2をトップから50.1秒遅れてフィニッシュ。ステージ10番手に終わり総合9番手まで順位を落とすこととなった。

 なお、トラブルの原因についてはチームによってすぐさま解明され、翌日のSS3以降は同様の問題が発生することはなかった。このデイ3で勝田はステージ4番手タイムを計4回記録する快走を見せ、ポジションを総合7番手まで挽回している。

「原因はいろいろと調査してもらった結果、明らかになりました」と勝田。

「ハンドブレーキから駆動系に伝わっていくところの調整がしっかりされていなかったそうで、そこから不具合が起きてしまったようです」

勝田貴元はSS2でハンドブレーキにトラブルを抱え約50秒を失った。また、最終日のSS18ではデフのトラブルから姿勢を乱し、マシンの左リヤ部にダメージを負った。

■5番手タナクと争うなか、あわやリタイアの危機を生き残る

 その後勝田はデイ3で順位をさらにひとつ上げ総合6番手に浮上。最終日のデイ4では午前中の2本のステージを終えた後、午後の1本目となったSS17で今大会のベストとなるステージ2番手タイムをマークした。

 ここでの走りについて勝田は、「少しアンダーステアが強かったのでセッティングを多少変えたところ、フィーリングが非常に良くなりタイムもかなり上がりました」と説明した。

 総合6番手につける勝田の好走の裏では、同5番手を走るオット・タナク(フォード・プーマ・ラリー1)が30秒以上タイムを失いながらSS17を走破した。この結果、両者のギャップは最終パワーステージを前にして0.1秒となり、勝田にトップ5フィニッシュのチャンスが巡ってきた。

 しかし、「総合5番手もいけるのではないか」そう意気込んでパワーステージに臨んだ勝田にふたたびマシントラブルが襲いかかる。それはスタートから4kmから5kmの地点で起きたという。

 国際映像に映し出された勝田のGRヤリスは明らかにスピードがなく、後方からの映像では左リヤが損傷している様子を確認することができた。このときの状況を勝田は次のように語っている。

「わりとタイトな右コーナーを立ち上がったところで起きた駆動系のトラブルでした。そこでリヤの駆動が一気に抜け、フロント駆動だけになってしまいました」

「右コーナーの立ち上がりだったので(コースの)左側に山がある状態だったのですが、(立ち上がりの最中に)そのままクルマが左側にスパンと抜けてしまい岩肌に左側面をぶつけ、それによってリヤバンパーと左リヤの足回りにダメージを受けました」

 予期せぬクルマの動き、そしてアクシデント後にスロットルを開けることができなかったは「デフに問題があったため」と彼は付け加えた。

「まだ実際にクルマがファクトリーに着いておらず、明日(26日)の到着後に開けてみて(分析する)というところにはなるのですが、データで見ても『明らかにそのときにデフの中が壊れて、それが最後まで引きずっていた』というふうにエンジニアから聞かされています」

 なお、勝田はこのアクシデントの後マシンを引きずるようなかたちになりながらも、トップから約58秒遅れでフィニッシュ地点にたどり着いた。仮にタイトコーナーではなくハイスピードコーナーであったり、状況がひとつ異なればリタイアの可能性もあった危機的状況からクルマを最後まで運びきったことで、7位のダニ・ソルド(ヒョンデi20 Nラリー1)に順位を譲ることなく6位入賞を果たしている。

総合6位入賞を果たした勝田貴元/アーロン・ジョンストン組(トヨタGRヤリス・ラリー1) 2023年WRC第1戦ラリー・モンテカルロ

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