物流「2024年問題」が迫るなか、業績予想を上方修正した強気な企業とは?

「ピンポーン!」

今日もまた宅配便が届きました。昨夜ポチったものが、翌日の午前中には届くという素晴らしさ。すっかりこのスピード感に慣れてしまいましたが、もしかしたらこの快適な通販生活は続かないかもしれません。

というのも、いま経済界でもっとも懸念されているのが「物流」。コロナによってネットショッピングが一気に広まり、宅配個数は増加しています。一方で、ドライバー不足は深刻で、時間外労働でしのいでいる運送会社も多いと聞きます。

さらに追い討ちをかけるのが「2024年問題」。2024年4月から、ドライバーに年960時間を上限とする残業規制が適用されます。月平均の単純計算だと、現行基準の残業上限から約19時間短縮され、これは東京―大阪間(約550km)のトラック輸送の往復時間に相当します。

長時間労働が当たりまえとされた物流業界だけに、2024年問題はかつてないほどの大変革をもたらすかもしれません。いかに効率よく荷物を運び、ドライバーの労働時間を減らすか……これが大きな課題となります。


第1四半期決算で強気の上方修正!

運送会社にとっては、戦々恐々の2014年問題ですが、逆に追い風になる企業もあります。1月13日(金)に2023年8月期第1四半期決算を発表したユーピーアール(7065)です。荷物の保管や輸送に使われる箱形の荷台「パレット」のレンタルや販売が主力事業。

時価総額100億円ほどの小粒銘柄ですし、わたしたち一般消費者とはあまり接点がないので、知名度はけして高くありません。わたしも普段なら気にもとめないところですが、当社は第1四半期決算のタイミングで、上期と通期の予想を同時に上方修正してきたので「ん?」とアンテナにひっかかりました。

経験上、第1四半期決算で上方修正を出してくる会社は、その後もさらに上方修正することが多いと認識しています。多くの企業は、早い段階で修正を出すのをためらいます。いくらスタートダッシュがよくても、その後不測の事態で失速するリスクもあり、結局予想値に到達できなかったなんて失態は避けたいものです。それでも早い段階で上方修正を出す企業は、よっぽど今期の業績に自信があると読めます。

それでは、ユーピーアールの決算短信を見てみましょう。

画像:ユーピーアール「2023年8月期第1四半期決算短信[日本基準](連結)」より引用

①売上高3,748(百万円)で②前年同期比+13.5%、③営業利益252(百万円)で④前年同期比+47.6%、売上も営業利益も前年同期と比べて二桁の増収増益です。ところが⑤経常利益は268(百万円)で⑥前年同期比-42.3%と、大幅減益となっており気になるところです。

下の段の前年2022年8月期第1四半期の業績をみると、⑦営業利益170(百万円)、⑧経常利益465(百万円)とかなり差があります。なぜこんなに差があるのでしょう?

答えは損益計算書にありました。

画像:ユーピーアール「2023年8月期第1四半期決算短信[日本基準](連結)」より引用

経常利益は、営業利益から、①営業外収益をたして、②営業外費用を引いたものです。営業利益と比べて、経常利益が異常に大きいときは、営業外収益の項目を確認しましょう。
前第1四半期で明らかに大きな数字が乗っているのは、③受取補償金290,665(千円)、これが営業利益と経常利益の差をもたらしていることが分かります。

受取補償金は、一時的に発生するものなので、前期の経常利益は、持続性がある数字ではなく、一時的にカサ増しされた数字ですね。となれば、今期の経常利益が前期に比べて大幅減益でもなんら気にすることはありません。

余談ですが、決算情報を伝えるヘッドラインでは「今期経常利益は、−42%減益」などと、一部の数字だけが取り上げられることが多いものです。これだけ見ると、悪い決算内容だと判断してしまいますので、ヘッドラインに惑わされず、かならず決算短信など一次情報を確認することをおすすめします。

物流業界の救世主となるか?

同時に上期と通期の予想を上方修正しましたので、その理由を確認しましょう。

画像:ユーピーアール「2023年8月期第2四半期連結業績予想及び通期連結業績予想修正について」より引用

冒頭に「2024年問題への対応期限が迫っているため、大手企業を中心にトラックドライバーの長時間労働の改善につながるパレット輸送や共同配送の動きが活性化しております」とあります。まさに、物流業界に重くのしかかる2024年問題の解決策のひとつとして、同社のパレットに注目が集まっているようです。

さらに投資家目線で目をこらせば「大手企業を中心に」という一文がひっかかります。じつは国内の運送会社は6万社超存在し、その約99%が小規模企業です。となれば、今後大手だけでなく、中小の運送会社にもパレット使用が広がるかもしれません。

物流業界の構造改革は、国土交通省が「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」という政策を掲げており、いわば国策と言えます。“国策に売りなし“という投資の格言がありますが、これらのチャンスを捉えるという意気込みを同社の上方修正から感じられます。

コロナで苦しんだ保管用パレットも回復

巣篭もり需要による宅配個数の増加は、同社のパレットリースには追い風でしたが、在庫のための倉庫で使用される保管パレットには逆風となりました。世界中で生産活動がストップしたため、在庫が減少。当然、倉庫の需要は減退します。

ユーピーアールの2021年8月期は、営業利益が前年比でー53.3%と2019年6月の上場以来、初の減益決算となりました。この苦しい時期に、販管費を見直し、さらにはDX化を推進したことで、筋肉質な営業体制を獲得。経済活動の再開により、徐々に在庫が増え始め、保管パレットも回復しつつあります。

制度変更に投資チャンスあり!

物流の2024年問題は、民間企業が抗えない制度の変更によるものです。制度や法律が変わるときは、既得権が剥奪され、ニューカマーが活躍の場を得るチャンスにもなります。

2023年10月から導入されるインボイス制度も同様です。請求書の仕様変更や、業務の複雑化をサポートするようなシステムやサービスを提供する会社に注目が集まっています。おそらくこれから発表される決算で、そういった企業の業績に変化が見えてくるのではないでしょうか?

法律や制度の変更は、ニュースなどでも報道されます。自分に関係ないものだと聞き流してしまいますが、投資家耳を持っていれば、ぴくんと反応するはず。そこから大きな投資チャンスが生まれるのです。

※本記事は投資助言や個別の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資にあたっての最終決定はご自身の判断でお願いします。

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