島原半島デマンド交通<3> 島原市「たしろ号」 タクシー形式で利便性向上

たしろ号に乗り込む利用者ら=島原市、イオン島原ショッピングセンター駐車場

 11日昼過ぎ、長崎県島原市弁天町1丁目のイオン島原ショッピングセンター駐車場。黄色い車体が目を引く市コミュニティーバス(通称たしろ号)が滑り込むと、買い物帰りらしき3人が慣れた様子で乗り込んだ。
 「以前は路線バスを使っていたが、バス停は遠いし不便だった。今はたしろ号が祖母の家やお店の近くに止まってくれて助かる」。島原鉄道島原駅前から乗っていた雲仙市のアルバイト、江口怜奈さん(20)は月3~4回、買い物などで利用。約10分後、路線バスのルートから外れた高台の停留所で車を後にした。
 公共交通の空白地帯を解消しようと、市は2020年3月、北部3地区で9人乗りワゴン車のたしろ号の運行を開始。既定ルートを時刻表通りに運行する「バス形式」の上、乗車前日夕までの予約が必要だったため、20年度の利用者は約700人にとどまった。

島原市コミュニティバスたしろ号

 21年9月末、島原鉄道の路線バスの市内区間が大幅に廃止されたのに伴い、市は同10月、人工知能(AI)を駆使した「デマンド送迎サービス」をたしろ号に導入。予約に応じて経路を決め、乗客が希望する停留所で乗降できる「タクシー形式」に変えたことで、利便性が向上。市民の足として定着し始めた。
 市内を南北2エリアに分け、全7地区で運行。廃止した島鉄路線バスから引き継いだ停留所を含めて約260カ所。2エリアの乗り継ぎを除き、1回200円(中学生以上、小学生100円、未就学児無料)の割安な運賃も好評だ。
 平日1日の平均予約数は100件超に上り、利用者は月2500~3900人程度に増えた一方、利用30分前までの予約(電話かネット)がネックとなる面も。通院時に利用する高齢者は「直前の予約がほぼできない。行きだけ使い、帰りはタクシー。診察が終わる時間が分からないので帰りの事前予約ができない」と不満を漏らす。

予約状況をタブレットで確認する運転手=島原市内

 このような課題を解決しようと、市は昨年10月から、平日と土曜、日祝日の3パターンに分け、7台あるたしろ号の稼働台数を調整。増便も検討するが、市の財政負担が増えるため、実現するハードルは高い。
 近年の燃料高騰なども懸念材料の一つ。市は車体広告による収入増や100円程度の値上げを視野に入れている。その場合、現行の南北2エリアから市全域にエリアを広げ、市役所での乗り継ぎを廃止する方向。
 さまざまな課題が山積する中、古川隆三郎市長は「日常生活で必要な移動手段の確保が大切。さらに使いやすい運行に努める」と話す。市民に寄り添いながら、持続可能な地域交通の姿を追い求めている。


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