「世界が広がった」北海道でオンリーワンの“保護帽”つくる特殊衣料

今週の特集は、「特殊衣料」という札幌の企業。1981年に病院や施設で使う大人用布おむつのクリーニング業からスタート。その後、衣類やシーツ、タオル類のクリーニングなども手掛けるようになる。そんな中、約30年前から始めたのが頭を衝撃から守る帽子「保護帽」だ。いったいどんなものなのか。

【「世界が広がった」要望に応え“可愛い”保護帽】

栃木県で暮らす上田恵さん、結華ちゃん親子。結華ちゃんが被っている帽子。転倒の衝撃から守るいわゆる「保護帽」だ。

特別支援学校に通う結華ちゃんは10歳。遺伝子の病気で医師からは「歩行は困難」と言われたが、5歳の時に奇跡的に歩けるようになった。とは言え足元はおぼつかなく、学校からは「保護帽」の装着を勧められたのだという。

しかし、周りで保護帽をかぶっている子どもを見ると、「ヘッドギアのようなものばかりで抵抗があった」(恵さん)という。結華ちゃんに似合う保護帽を探し続けていた恵さん。人づてに札幌の特殊衣料という会社がおしゃれな保護帽を作っていると聞き、ネットで検索した。

カタログに載っていた保護帽は、ファッション性も兼ね備えていた。惠さんはすぐに特殊衣料に連絡。「ピンク色でターバンのような保護帽がほしい」と何度も担当者と打ち合わせを重ね、3カ月後、リクエスト通りの保護帽が届いた。恵さんは「私たちの思いに応えてくれたことで、私の世界も広がった感じがした」と話す。今は2つ目をオーダー中だ。

【誕生のきっかけは】

札幌・西区にある特殊衣料。転倒などの衝撃から頭を守る保護帽を作っている会社だ。

きっかけは一本の電話。脳障害がある女の子の家族から、洗えて緩衝能力が高い帽子がほしいと依頼があったのだという。

実際に会いに行くと「F1レーサーのヘッドギアみたいなのをかぶっていた。重さで頭がふらついていた」と振り返る。藤本顧問は「当時、ちょうどメッシュの素材が開発され始めた。これだと緩衝能力があって通気性があって洗えると考えた」と話す。

そうして出来上がったのが、「愛帽」という名前の保護帽だ。

衝撃吸収性に優れ、軽くて洗える使い勝手のよいものではあったのだが、見た目はヘッドギアのような、野暮ったいもので、売れ行きも良くなかった。そこで2000年に産学官連携のプロジェクトに加わり、札幌市と札幌市立高専の協力を得てデザイン性を高めていった。

そして2年後に出来上がったのが、日常生活でも違和感なく使えるアボネット。頭を守りつつもおしゃれな、特殊衣料が目指してきた保護帽だ。一般的な帽子よりもパーツが多いため、デザインとの両立に苦労したという。アボネットのデザインは約60種類。外出用、室内用がありそれぞれ特殊な緩衝材を組み合わせつくる。商品づくりはすべて従業員の手作業だ。

2011年には研究機関に依頼し衝突実験を実施。アボネットをかぶることで脳や頭蓋骨の損傷リスクを減らせることを実証し、これが客観的な評価へとつながった。

【企業も採用 ニーズに応えることで成長】

札幌・豊平区の日糧製パン。工場で生産、出荷されるパンはトラックで北海道各地のスーパーやコンビニなどに運ばれる。ここで活躍しているのが、アボネットだ。

日糧製パンの大沼部長は「ルートセールスの社員が自分でパンを運ぶ。冬期間早朝早い作業で、凍った路面で足を滑らせて転倒するという事故が続いた。もし転倒しても頭だけは守りたい」と導入の理由を話す。

見栄えもよく性能もいい保護帽を探していた時に、アボネットの記事を見つけたという。おととし特殊衣料に連絡を取って注文。視界を広げるためにつばを短くしたり、後頭部を守るために後ろを長くしたりと、何度も試作を重ね、約1年かけて完成した。今は配送や車両整備担当の従業員約200人が使用しているという。

障害がある人以外にもアボネットの評判は広がり、今では年間約1万個を生産する。売り上げはこの10年、ほぼ右肩上がりだ。事業を率いるのが、池田真裕子社長。4年前に母親で現会長の啓子さんから経営を引き継いだ。池田社長は「客のニーズありきの商品づくりが多いので、つくると感謝もされる。取り組む意義もある」と話す。

【障害者雇用にアート支援も】

特殊衣料は、障害がある人たちの雇用にも積極的だ。社員153人のうち30人を占める。ほとんどが正社員として清掃やリネンサプライに従事している。かつてひきこもりだった人も6人いるという。

札幌駅前通の地下で行われた展示会。開いたのは、特殊衣料グループの社会福祉法人、ともに福祉会だ。ともに福祉会は2000年に障害がある元従業員の
就労支援の場として立ち上げた。2003年からは専門家を講師に招き、利用者は週に1度絵画や工芸作品を製作。作ったものをカレンダーやポスター、雑貨などに加工し、「ともにアート」としてブランド化したところ、創造力あふれた作品が話題を呼び、各地で展示会を開くまでになった。

現在「ともにアート」を担う作家は19歳から66歳までの17人。商品は全国の文房具店や書店など23カ所で販売されている。

【MC杉村太蔵さんの一言】

MCの杉村太蔵さんは「特殊なニーズに応えても経営はできる」と話した。特殊なニーズは市場が小さく、一見利益に結び付かないように思えるが、一人の困りごとは他の人・企業の困りごとにも繋がっていることもある。ニーズに応えようという真摯な姿勢が企業の価値も高めている。
(2023年1月28日放送 テレビ北海道「けいナビ~応援!どさんこ経済~」より)

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