少子高齢化などを背景に、空き家や山林、農地などの土地を相続したものの、その買い手、借り手が見つからずに放置状態になっている不動産が急増しています。そういった不動産は、活用もできずに固定資産税といった出費だけがかかり続ける、プラスの資産というよりは負の資産に近い状況から「負動産」とも表現されるようになってきました。
一方、DIYで空き家を改修したり、ソロキャンプとして山林を活用したりするなど、負動産でも活路が見出されてきている側面もあります。しかしながら、中には活路を見出しようのない「トンデモ負動産」も多くあります。
そこで、今回は筆者が関わったトンデモ負動産の実例をご紹介します。なお、この記事では実例のご紹介だけでなく、トンデモ負動産をその後どう活用したかについてもご紹介したいと思います。
事例1:崖が崩落した土地
一つめの事例は、土砂崩れによる崖部分の崩落によって、土地の一部が失われてしまった土地です。
いうまでもなく、土地面積が減っている以上、本来あった資産価値を大きく失っています。さらには、土砂崩れが起こっている経緯からも、今後も崩落が進行する可能性が連想され、「所有しているだけでも不安な土地」と化していました。なお、最近は大型台風などをきっかけとした大規模な土砂災害や崖の崩落事故が頻発し、ニュースを通して深刻な被害を目にする場面も増えてきました。
崖崩落は、自らの資産の価値減少だけでなく、土砂が流れて周辺民家や道路に被害を与えてしまうケースなどもあり、所有者のみならず、誰もが被害者になるリスクを孕んでいる負動産なのです。
——トンデモ負動産のその後
相続によりこの土地を取得した所有者も、実際に現地を見た筆者も、最初は「もう、どうにも手が付けられないし、処分もできない土地」と諦めざるをえない認識でした。
しかし、僅かな可能性にかけて、売却活動を始めたところ、なんと「スリルのある土地を探していた」という購入検討者が現れ、無事に売買取引成立となりました。
ちなみに、購入された方は、決して”無責任なスリル”を求めていたわけではなく、土木・地質に関する知識があり、この崖で崩落がさらに進行する可能性は低いという専門的判断もあり、円満な形で取引が成就しました。
事例2:倒木が頻発する雑木林
二つめの事例は、倒木が頻発する雑木林です。
この土地は、もともとは寺院の境内だった敷地で、雑木林の維持管理を担うために、その檀家の方が雑木林を買い受け、代々所有してきた土地でした。元境内ということもあり、敷地内には隣接した墓地を通らなければ行き来ができず、車で立ち入ることは物理的にできない立地状況でした。そのため、雑木林の使途も限られ、十分な維持管理も難しいことから、木はどんどん育って高木となり、朽ちた木が強風などで倒れる状況になっていました。
敷地内での倒木のほか、墓地側へ倒れてしまい、墓石を壊してしまうようなケースもあり、「使い道がないのに賠償責任ばかりが膨らんでいく」という、頭の痛い状況が常態化していました。
——トンデモ負動産のその後
立地上の特殊性から、活用が難しいと諦めかけつつ、前に挙げた事例のように、ダメもとで売却活動に取り組んでいたところ、対象地内でシイタケ栽培をしたいという購入検討者が現れ、無事に取引成就となりました。
なお、この雑木林を購入された方は、造園業の経営者で、木のメンテナンスや整備の知識も豊富であったため、倒木などのリスクに対してもプロとして向き合えるということで、お互いに安心して取引できることとなりました。
「トンデモ負動産」は、意外なほど身近にあふれている。
いかがでしたでしょうか。2つの事例ともに、結果的には、安心して土地を活用してくれる人の手に渡ったものの、もともとの所有者の立場になって考えると、「土地との縁を切りたくても切れず、永遠にそのリスクと付き合っていく必要がある」という、想像しただけで怖い財産であることが分かります。
ところで、ここまでお読み頂いた方はおおよそ想像いただけたかもしれませんが、今回ご紹介したようなトンデモ負動産は、決して”対岸の火事”として眺めていられるような珍しい不動産ではなく、身近にあふれています。
不動産は、維持管理をせずに放置期間が長くなるほど、色々なリスクが増え、問題が大きくなりがちです。もし、近隣でこのような土地があったり、自分自身や家族・親族がトンデモ負動産の土地を所有していたりする場合は、早めに関係者で話し合いの機会をもち、適切な維持管理や、責任をもって使ってくれる人に譲渡するなど、積極的な方策を考えていくことが重要なのです。