【コラム】マカオのカジノに外国人専用エリア爆誕!?(WEB版)/勝部悠人

昨今、マカオのカジノに外国人専用エリアが誕生する可能性が浮上し、現地で大きな話題となっている。

コロナ前にマカオのカジノを訪れたことがある方なら、同卓になった中国人ギャンブラーの勢いに圧倒されたことや、あっという間にテーブルの周囲に何重もの人垣ができて驚いたという経験をお持ちの方もいらっしゃるだろう。雰囲気に呑まれてしまい、なかなか落ち着いてゲームに集中できないものだ。

また、マカオのカジノではディーラーとのコミュニケーションは基本的に中国語となっており、同じ東アジアなら日本語や英語の通じるディーラーのいる韓国、シンガポール、フィリピンの方がいいという話を聞くこともあった。

そもそも、なぜ今、マカオのカジノに外国人専用エリア設立云々という話が出てきたのか。実は、今年1月1日からスタートした新カジノライセンスと大きく絡んでいる。マカオ政府はライセンス入札にあたって様々な要件を課したが、中でも中国本土以外の海外からの誘客促進を重点評価項目の1つとして挙げた。また、法改正によって、カジノフロア内に海外客専用のエリアとそのエリア限定のゲーミングチップを設け、それらにより産出されたカジノ粗収益(=GGR)についてはカジノ税の5%分の減免を認めるとした。

コロナ前におけるマカオのインバウンド旅客数全体に占める中国客の割合は8割弱。カジノ客についても同様だったとみていいだろう。マカオ政府は、特定市場への過度な依存から脱却を図ることを目標として掲げており、虎の子であるカジノ税の減免措置に踏み切ったかたちだ。マカオのいわゆるカジノ税はGGRの約40%であり、金額の母数が大きいため、カジノ事業者にとってこの5%分は魅力的といえるだろう。例えば、コロナ前2019年のマカオのGGRは約5兆円であり、海外客分が1割の5000億円とすると、これに対する税は40%として2000億円、5%減免の35%として1750億円となり、差額は250億円にも上る計算だ。

推論になるが、外国人専用エリアを設けたカジノでは、減免分の一部をリベート、コンプといったプロモーション活動にも使ってくるだろう。外国人客としても大歓迎といえる。新ライセンス保有者の顔ぶれは前ライセンスと同じ6事業者だが、そのほとんどがマーケティング対象として日本を名指ししている。日本以外では、韓国、マレーシア、タイなど東アジアの名も挙がる。日本でマカオのカジノの名を見聞きする機会が多くなることも予想され、お得なパッケージなどが用意されることも期待できそうだ。

とはいえ、一朝一夕に海外客を増やせる訳ではないはずだ。東アジアだけでも次々とカジノ国が勃興し、また力をつけてくる中、地域間競争は激しさを増している。マカオは長期にわたってゼロコロナ政策を堅持し、海外との往来がほぼ断絶していたことも不利な点だ。昨年12月に事実上のウィズコロナへ急転換し、入境者の隔離検疫も撤廃となったが、周回遅れの感は否めない。今後、中国語以外の言語を操るディーラーをはじめとしたスタッフの養成(マカオではマカオ人しかディーラーになれないルールが存在する)はもちろん、これまで中国人仕様が主だったところ、グローバルスタンダードなソフト、ハード、サービスへのアップグレードなどが急務だ。課題山積ではあるが、過渡期を経てマカオの新しい景色がみられることになるはずだ。

なお、マカオのカジノはシンガポールや韓国のように、施設入口での身分証チェックは基本的にない(※コロナ防疫対策による健康申告書の本人確認のため暫定的に身分証の提示が必要となっている)。おそらく、実際の運用にあたっては、フロアの一部を外国人専用エリアとし、その入口でパスポートチェックを行うことが想定され、いきなりメインゲートから動線を分けて外国人だけを特定エリアへ誘導するようなことはないだろう。もちろん、カジノ側としては、外国人が専用エリアで遊んでくれた方がメリットは大きいため、知恵を絞って誘導策を打ち出してくるに違いないが。実際に運用がスタートした後、そういったところの状況もご紹介する機会があればと思っている。

新ライセンスのスタートとウィズコロナへの転換が奇しくも同じタイミングとなり、2023年はマカオのカジノにとって再出発、そして復活を期す重要な一年になりそうだ。

シンガポールの「リゾートワールド」カジノ施設入口に掲出されていた地元客と外国人客の動線を分けるサイネージ(資料)=筆者撮影

■プロフィール
勝部 悠人-Yujin Katsube-「マカオ新聞」編集長
1977年生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、日本の出版社に入社。旅行・レジャー分野を中心としたムック本の編集を担当したほか、香港・マカオ駐在を経験。2012年にマカオで独立起業し、邦字ニュースメディア「マカオ新聞」を立ち上げ。自社媒体での記事執筆のほか、日本の新聞、雑誌、テレビ及びラジオ番組への寄稿、出演、セミナー登壇などを通じてカジノ業界を含む現地最新トピックスを発信している。

© 遊技日本合同会社