“力任せにしない介護” 広めよう 長崎・五島 人材確保、育成へ事業者ら模索

介護用のリフトでベッドから車椅子に移す職員(左)=五島市、高齢者福祉施設かけはし木場(施設提供)

 全国的に介護分野の人材が不足する中、長崎県五島市内の介護事業者などでつくる協議会が、力任せに持ち上げたり、抱え上げたりせずに介助する方法「ノーリフティングケア」の普及に取り組んでいる。業務の負担を軽減し、離職を防ぐ狙い。長崎市内の専門学校生を対象とした見学ツアーなども企画。五島市内の高齢化が進む中、事業者の模索が続いている。

 ◆人手足りず廃業

 県によると、団塊の世代が75歳以上となる2025年度に、県内で不足する介護人材は推計で2100人。地域別の内訳はないが、五島地区の介護関連の有効求人倍率は、ここ数カ月でも軒並み県全体を上回っている。
 一方、市によると、この4年で計20事業所が廃止や休止、縮小に追い込まれており、人手不足が一因にあるという。五島市の高齢化率は4割を超えており、市内の介護事業者からは「お年寄りは増えるのに受け入れ側の人手不足で、運営が厳しくなる」と危惧する声も聞かれる。

介護用のシートを使い車椅子に移す職員(左)=五島市、高齢者福祉施設かけはし木場(施設提供)

 ◆双方にメリット

 こうした中、市内の介護事業者などでつくる五島圏域介護人材育成確保対策地域連絡協議会が、普及に取り組んでいるのがノーリフティングケアだ。
 持ち上げや抱え上げ、引きずりを禁止し、入所者の状態に応じて福祉用具も活用する介助。国内では高知県や青森県で導入が進んでいる。
 短期入所施設などを運営する社会福祉法人なごみ会は19年、五島市内で先駆けて導入。従来の力任せの介助では、入所者の体がこわばって動かしにくくなる拘縮や、内出血、皮膚の剥離を起こしていた。
 研修を重ねて体の使い方や寝返りのさせ方などを職員に習得してもらい、確認テストを小まめに実施。教材用の動画を作成し浸透を図った。ベッドから車椅子に移す際に使う移動式リフトやスライディングシートなど、ノーリフティングケアのための用具も積極的に使い始めた。
 その結果、入所者の内出血などの件数が減少し、複数人で対応していた介助が1人でも可能に。職員アンケートでは、腰痛を訴える回答が減ったという。「以前は余裕がなかったが、入所者の顔を見て会話することが多くなった」と利点を語る係長の山田繁明さん(55)。同法人の山口和洋理事長は「入所者、職員の双方にとって良い。腰痛など体力面が理由の離職を防いでいきたい」と説明する。
 同協議会としても20年度から取り組みを開始。県外から講師を招くなどして昨年度からモデル事業所による合同研修を実施した。施設ごとの職員の習熟や用具の購入費用など課題はあるが、圏域単位でのこうした事例は県内でも珍しいという。

 ◆ブランディング

 昨年9月下旬、同協議会と県は介護施設の見学ツアーを実施。長崎市の専門学校生で外国人を含む8人が1泊2日の日程で、五島市内の老人介護、障害者支援の5施設を訪れた。各施設の若手職員との食事会や大瀬崎の散策など、将来的な居住を見据え、五島の自然や文化を知ってもらう企画も盛り込んだ。
 五島市玉之浦町の特別養護老人ホームたまんなゆうゆうでは、職員が施設内を案内。市内の景勝地を動画で編集した“プロモーションビデオ”を上映し、「五島は移住で注目されているので興味があった」と女子学生(31)。同施設は「五島に興味を持ってもらうためブランディングも大事」と語る。
 同協議会はこれらの企画に加え、昨年4月には、各施設の新入職員の入社式と研修を初めて合同で実施。研修の充実、効率化を図っている。老人介護施設只狩荘の施設長で、同協議会の山田峰雄会長は「事業者全体で、人材確保や育成に努めていく」と強調する。


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