殺人容疑の兄「これしかなかった」 病で不安定な妹支え続け... さくらの絞殺事件

事件が起きた住宅。容疑者は日頃から妹の面倒を見ていたという=8日午後9時40分、さくら市

 栃木県さくら市の民家で兄が妹の首を絞めて殺害したとされる事件で、殺人容疑で逮捕された同市、会社員男(38)の40代親族女性が26日までに下野新聞社の取材に応じ、事件に至る経緯を語った。妹=当時(36)=は長年、統合失調症を患い、男が支えていた。だが昨秋から妹の容体が悪化し、言動に悩んでいたという。「家族を守るためこれしかなかった…」。面会した親族にそう話した。親族は事件を防げなかったやるせなさを感じている。

 8日の日中。男の70代の母親は自宅で物音に気づいた。2階に上がると、男と妹がもみ合いになっていた。止めようとしたが男に促され、その場を離れたという。

 2階から下りてきた男は母親に「外出する」と伝えた。向かったのは近くの交番。「妹を殺しました」と自首した。

 親族によると、妹が統合失調症の診断を受けたのは22歳のころ。数年後に父親が他界し、母と兄妹の3人暮らしになった。「俺がしっかりしないと」。男が通院の送迎や治療費の面倒を見た。地域住民には「妹思いのお兄ちゃん」と映った。

 妹は入院することもあったが、治療を受けながら日常生活を送っていた。変化があったのは入院治療を終えた昨年10月ごろ。服薬を拒むようになり暴力的な言動が顕著になったという。

 年明けには妹が自宅で暴れ、110番する事態も。「俺がいる間なら止められるけど…」。男は妹の不安定な行動に不安を漏らしていたという。1月5日に妹の再入院が決まった。事件は入院を数日後に控えた中で起きた。

 捜査関係者によると、男は調べに「妹に入院の話をしたら暴れ出した。取っ組み合いとなり、カッとなって首を絞めてしまった」などと供述している。親族は「最後の退院から症状は日に日に悪くなり、かなり負担だったと思う」と推察する。

 「これしかなかった。罪を償ってくる」。男は面会室で泣きながらそう話したという。親族は「人を殺したのはいいことではないが、今までやってこられたのは兄のおかげ」と複雑な胸中を明かす。

 一方、ある捜査関係者は「かわいそうな事件だが、殺人は殺人。他に道はなかったのか」と語った。

 「もう少しできることはなかったのか…」。事件前、男から相談を受けていたさくら市内の福祉支援施設や行政の担当者は、今も答えを見つけられず戸惑っている。

 男の妹が以前に利用していた支援施設には昨年11月と12月、妹の容体悪化などについて相談があった。スタッフは男に対し、妹の自宅での言動を主治医に直接伝え、状態を正確に把握してもらうことなどを助言した。

 妹と面会しようともしたが、容体悪化を理由に断られた。スタッフは「こんな事件が起きるとは。もっと介入した方がよかったのか」と肩を落とした。

 同市福祉課は同11月、男から初めて相談を受け、妹の病状を聞き取るなどした。「何かできることはなかったか、精査したい」と担当者は話す。事件を受け、同市は相談窓口周知のため、支援施設のチラシを全戸配布することを決めた。

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