初期ラルクの儚く耽美的な世界 〜 今なお進化を止めない L'Arc-en-Ciel の魅力  ファーストアルバム「DUNE」オリコンインディーズチャートで1位!

稀代の天才ボーカリストhydeを擁するL'Arc〜en〜Ciel

天性のロックボーカリストがいるとしたら、hydeは間違いなくそのひとりに数えられるだろう。華奢な体から放たれる力強さと柔らかさを併せ持った歌声。「イケメン」などという生やさしい言葉では表現できないほどの神々しいまでの美貌は、まさしく地上に降り立った天使のようでもある。

ルックスと実力を超高次元で兼ね備えた稀代の天才ボーカリストを擁するL'Arc〜en〜Cielが大阪で結成されたのが1991年のこと。以降メンバーの入れ替えを経て、2年後の1993年にドラマーのsakuraの加入によって “初期ラルク” の布陣が固まった。

同年4月にインディーズとしてリリースしたファーストアルバム『DUNE』はオリコンインディーズチャートで1位を獲得。この段階で既に1,000人規模のライブハウスを余裕で埋められるほどの人気を誇り、翌1994年には早くも渋谷公会堂でのワンマンライブ(ツアー「ノスタルジーの予感」)を実現。

同年7月に結成からわずか3年にしてビデオシングル「眠りによせて」で念願のメジャーデビューを飾った。かなりのスピード出世は、早い段階で人気、実力の両面で認められていたことの証左であろう。

透明感の化身のようなhydeが放つ無類のオーラ

注目したいのが、メジャーデビュー作品がCDではなくビデオだという点だ。彼らのセカンドアルバム『Tierra』(メジャーデビューアルバム)に先駆けてリリースされた「眠りによせて」はオリコンビデオチャートで最高3位という好順位を記録。後年のインタビューによればメンバー本人達は必ずしもこの変則的なデビュー形態を快く思っていなかったようではあるが、L'Arc〜en〜Cielというバンドの世界観をビジュアルで伝えるという意味で、この作品が果たした役割は大きかったのではないかと思う。

彼らが活動を始めた1990代前半はロックバンド群雄割拠の時代。特に音楽シーンを席巻したのが、派手なメイクを施した「ビジュアル系」と呼ばれるジャンルだった。黒い衣裳をまとい、「血、闇、薔薇」といったキーワードに代表されるダークな世界観を表現するバンドが主流を占める中で、ラルクは異端ともいえる存在感を放った。

透明感の化身のようなhydeが放つ無類のオーラ、そして儚くて耽美的なサウンドと歌詞は、色合いで言えば「白」系統のイメージだ。そんなラルクの音楽を聴いていると、まるで一編の短編小説か、抽象絵画を鑑賞しているような気分になることがある。

ギタリスト・kenが作る儚くも美しいメロディ

「眠りによせて」から始まり、「Siesta 〜Film of Dreams〜」(1994年)、「and She said」(1995年)と続いたビデオ作品は、そうした彼らの魅力を視覚的に表現した異色作である。とりわけ抽象表現を突き詰めたようなショートフィルム集「Siesta 〜Film of Dreams〜」は、メンバーが登場せず、並木路の移ろいを5分超にわたり映し続けた「瞳に映るもの」など、初期ラルクが醸し出す幻想的な空気感を知る上で重要な作品となっている。そのため、これからラルクを聴いていきたいという方には、これらのビデオ作品を併せてお楽しみいただくことをお薦めしたい。

ラルクの最大の特徴として挙げられるのが、メンバー全員が優れたコンポーザー(作曲者)だという点だ。これはドラマーがsakuraからyukihiroに交代してからも変わることのないバンドの一貫した強みでもある。

バンドの肝でもあるコンポーザーは一人の才能に依存するケースがほとんどだが、ラルクの場合はそれぞれが個性的な感性を持つメロディメーカーとして自立しており、メジャーデビュー以降に出した5枚のシングル曲はそれぞれhydeが1回、ken、tetsuyaが2回ずつ作曲を担当している。アルバムも各メンバーの楽曲が満遍なく散りばめられており、幅広い音楽性を楽しむことができるのもラルクの魅力である。

とりわけ「初期ラルク」という文脈で語るのであれば、ギタリスト・kenはこの時期の半数近い楽曲を作曲しており、その儚くも美しいメロディは上述したビデオ作品の表現とも一致する。L'Arc〜en〜Cielというバンドが持つ唯一無二の魅力を最も鮮やかに描き出しているのは、kenの楽曲群だと言っても相違ないだろう。こうした「誰の作る曲が好みか」という議論もラルク好きの間では定番のテーマとなっている。

初期ラルクの隠れた名曲「Wind of Gold」

ところで、sakuraが在籍時を初期ラルクとする4thアルバム『True』までに絞って個人的に特別な1曲を挙げるならば、セカンドアルバム『Tierra』収録の「Wind of Gold」を推したい。シングル作品ではなく、知名度が高いとも言い難い曲ではあるが、同じアルバムに収録されている「眠りによせて」「風の行方」といった作品と並んで、初期の特徴ともいえる “淡さ”、“儚さ” といった空気感が色濃く漂う隠れた名曲である。

ライブでは長らく演奏されていなかったが、2015年に大阪府夢洲野外特設会場でおこなわれた『L'Arc~en~Ciel LIVE 2015 L'ArCASINO』で実に19年ぶりに演奏され、スタンドからは狂気にも似た歓声があがった。

この時のシチュエーションが素晴らしかった。黄昏に染まるステージ。リムジンの荷台に腰掛けたメンバーを気だるそうに撫でる浜風。「夕暮れが似合う曲を聴いてもらおうかな」というhydeの情緒的な紹介も相まって、オーディションは曲の世界に浸りながらうっとりと聴き惚れたのである。

歌とトークのギャップもラルクの魅力

多種多様でハイクオリティな楽曲、妖艶な歌唱、そして各メンバーの圧倒的な存在感とルックスというロックバンドとしてのグラマラスさを全て網羅したようなラルクだが、MCやテレビ出演では関西訛りでのらりくらりとジョークを飛ばしたりもする。 当時のロックバンドは「無口」が一種のテンプレートだったこともあり、まだキャラクターが認知されていなかったデビュー当初は、この歌とトークのギャップにやられたファンも多かったようだ。

こうした意外性も含めて、初期から今日に至るまで一貫してカッコよくあり続け、ワールドワイドな存在となった今なお進化を止めないモンスターバンド・L'Arc〜en〜Cielに、世界はこれからも魅了されるのだろう。

カタリベ: 広瀬いくと

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