「食でこんなにも幸せになれる」舞さんの“やさしさが循環する”カレー 大人から子供たちへ ひと皿のエール

「とにかく、人が集まるような場所にしたい」

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小さなお店に、そんな思いを込めた女性がいます。

静岡市葵区鷹匠。オシャレな建物の一階に構えるカレー店「うたげ」。野菜や果物をメインに使った体にやさしいカレーを提供しています。10席ほどしかない小さい店ですが、店内はいつもお客さんでにぎわっています。人気のワケは、おいしさだけではありません。

きょうも“やさしさが循環するカレー”を作る栗原舞さん

「パワースポット」小さなカレー店が人気のワケ

店主の栗原舞さん。奈良県生まれの31歳です。

「お客さんどこから来たの?」

「仕事何してるの?」

「最近、彼氏とはどうなの?」

一人で店を切り盛りしていますが、お客さんとの会話が止まることはありません。元気な関西弁で話しかけられたお客さんは、笑顔で店を後にします。ここに来る人はみな、舞さんに会いたくて来てしまうのです。

お客さんたちは、この店を「心の拠り所」「元気がもらえる場所」「パワースポット」といいます。

舞さんは「私は人と話すことでパワーがもらえる。この店はお客さんにとって、第二の家のような、とにかく人が集まるような場所にしたい」と力を込めます。

旅先で見つけた舞さんの“原点”

舞さんは、大学を卒業し、大手ファッション企業に4年勤めた後、3年間、海外への旅を繰り返しました。インドネシア、オーストラリア、タイなど、たくさんの国に足を運ぶ中で多くの人と出会い、影響を受けました。

中でも、大勢で食卓を囲み、見ず知らずの自分にもやさしく料理を作ってくれたことで、自分も料理を振る舞うようになりました。本場のカレー作りを教わり、海外で食べてもらったところ、喜んでくれたことが、お店を始めたきっかけです。

「食でこんなにも幸せになれることに気づいた。これを日本でも絶対にやりたい」

2020年8月、静岡の地でカレー店を開いた舞さん。折しも、世の中はコロナ禍真っただ中。そこで、ある取り組みをはじめます。見ず知らずの自分にやさしくしてくれた海外の人のように、自分もやさしさを循環させたいと、目に見えぬ感染症に振り回され、混乱する時代の中で、アルバイトもできず、困窮する学生たちのために、カレーを無料で振る舞う仕組みを作ったのです。

お客さんに「学生1食無料券」を一枚1,000円で買ってもらい、メッセージを書いて壁に貼り付ける。学生たちは、好きな券を1枚とって、カレーを食べることができる―というシステムです。これを始めると、常連客から瞬く間にSNSで広まり、約2年で900枚以上が集まりました。

「学生に還元したいという舞さんの気持ちに惹かれて購入しました」と支援した大人たち。カレーを食べた学生からは「金銭的に苦しい状況だったので本当にありがたい」「学生無料券を寄付するような大人になりたい」そんな声が後を絶たちません。

「学生にとって外食は安いものじゃない。子どもは喜ぶし、大人は(子どもの)姿を見て頑張ろうと思うし、すごくいい循環が生まれる」(舞さん)

気づけば、「うたげ」は、一緒に「うたげ」を作っていく仲間が集う場所になっていました。

「もっと表現できることがある」次のステップへ

そんな目指していた光景を前に、舞さんは大きな決断をします。

「ここで表現できることはできたし、もっと自分には表現したいこと、表現できることがある」

わずか10席の場所でこのまま続けるよりも、もっと大きな場所で、もっとたくさんの人が集まることができるような場所を作りたい。舞さんは2022年11月末、一旦、店を閉めることを決意しました。

「わたしはね、何か判断をするときに『なんのために生きてるんだ?何をするために今ここにいるんだ?』ということ考える。そうすると、『幸せになるためだよな』『好きなことをして生きていくためだよな』ってなる。自分の人生を歩めるのは自分しかいないから」

自分らしく、仲間とともに幸せな空間を築いた舞さん。

彼女は、これからも「うたげ」を作り続けます。

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