コロナ「5類」に

 戦前は人の前を横切るとき「まっぴら御免(ごめん)」と言うのが礼儀だったという。大正生まれの詩人のエッセーでそれを知ったが、思えば自分も似た言葉をよく発している▲混んだバスの中で前に進もうとして「すみません」。お礼を言おうとして「お世話かけました。すみません」。「心配してくれてありがとう」とはあまり言わないが「ご心配かけてすみません」は慣用句の一つだろう▲3年前、新型コロナがにわかに広がった時は「申し訳ありません」の一語が飛び交った。感染すれば「不用心だ」とたたく誰かがいる。とりわけ有名人は、陽性と分かればひたすらわびる風潮があった▲国民の3割が感染したとされるいま、「やっとここまで」と心でつぶやく人も多いだろう。新型コロナの感染症法での位置付けを、5月8日に季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げることが決まった▲緊急事態宣言も外出自粛の要請も、それを出す法的な根拠がなくなる。かたや「コロナが終わったと誤解が広がる」と案じる声が、主に医療の現場から出ている▲安堵(あんど)と心配が入り交じるが、感染が「平謝り」を招いた頃とは、くっきり境界線が引かれるのは確かだろう。すみません、ではない。「お大事に」「気遣い、ありがとう」。そうした言葉が交わされる春を待つ。(徹)


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