ケリングやHSBC、生物多様性保全のためのファンド運用で取り組み加速へ

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生物多様性に着目した投資ファンドが登場している。ここでは、世界各地で自然保護や再生事業を行い、自然を基盤とした解決策を拡大するべく数百億円を投じるケリングやHSBCなどが立ち上げたファンドを紹介する。

ケリングとロクシタン、女性のエンパワーメントに注力した「自然のための気候ファンド」設立

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ケリングとロクシタングループは昨年12月に開かれたCOP15(生物多様性条約第15回締約国会議)で「自然のための気候ファンド(Climate Fund for Nature)」を共同設立した。高級ファッション・美容分野が自然の保全・回復のために資金を投入する野心的な取り組みであると同時に、女性のエンパワーメントにも力を入れる。3億ユーロ(約425億円)の目標額のうち1.4億ユーロ(約198億円)をすでに拠出しており、課題解決を加速する新たなパートナー企業の参画も見込んでいる。基金はフランスの資産運用会社でBコープ認証を取得するミローバが運用する。

2021年にサステナブル・ブランド ジャパンでインタビューしたミローバの副 CEO兼自然資本・プライベートエクイティの責任者、アン=ローレンス・ルシェ氏は「ケリングやロクシタングループなどと共に、気候変動や女性のエンパワーメントのために“自然を基盤とした解決策(nature-based solutions)”への資金投入を加速できることを誇りに思う。ネットゼロで、ネイチャーポジティブな(自然を回復し、増やす)経済には膨大な資金が必要となる。企業の野心的貢献は変革を実現するのに不可欠だ」と語る。

地球や気候、経済の健全性を実現する上で生物多様性が果たす重要な役割に新たに注目が当たる中、国や企業は生物多様性の危機への闘いに向けて取り組みを強化し始めている。

国連の報告書『State of Finance for Nature(自然のための金融状況)』によると、世界が気候変動や生物多様性、土地のリジェネレーション(再生)などの目標を達成するには、自然を基盤とした解決策への投資を2030年までに少なくとも3倍に、2050年までに4倍に増やす必要がある。こうした加速のための対策への累計投資総額は最大10兆ドル(約1300兆円)、将来的な年間投資額は6740億ドル(約89兆円)に上るとみられている。

ケリングは、2025年までに生物多様性にネットポジティブな影響をもたらすという目標を掲げる。同社のCSO兼国際機関渉外担当責任者であるマリー=クレール・ダヴー氏は「2030年までに生物多様性の損失を逆転し、気候変動への対策を同時に進めるには自然を基盤とした解決策を実行するのに必要な投資を行う革新的な融資メカニズムが重要となる。ネイチャーポジティブな未来のために、より多くの企業がこの野心的なイニシアティブに参加することを強く期待する」と語る。

ロクシタン・グループは2021年、ネイチャーポジティブを目指す生物多様性戦略を掲げた。CSOのエイドリアン・ガイガー氏は、「自然のための気候ファンドはリジェネラティブな慣行を促進するプロジェクトを支援し、自然とコミュニティの両方に利益をもたらすことで、私たちをさらに前進させる助けとなるだろう」と語る。

同基金の運用は2023年の第1四半期から始まる。自然の保護・回復のための質の高いプロジェクトを支援するために、リジェネラティブな(環境再生型の)農業に転向する農家の支援、カーボン・クレジットの提供、女性のエンパワーメントに特に注力してコミュニティに相乗便益を生み出すことを目指す。対象となるのはケリングとロクシタン・グループの主な原料調達国だ。支援の対象となる事業は、融資や土地、トレーニングへのアクセスギャップの解消に取り組み、女性のエンパワーメントに大きく貢献することが求められる。同ファンドとミローバは、ジェンダー平等を促進する投資「ジェンダーレンズ投資」の国際プラットフォーム「2X Collaborative」と協働する考えだ。

HSBCの合弁会社、自然を基盤とした気候変動対策で860億円調達

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英大手金融HSBCアセットマネジメントと英気候変動投資顧問会社ポリネーションの合弁会社として2020年に設立された「クライメート・アセット・マネジメント(CAM)」は、自然資本に特化した運用を行う。このほど、自然資本を修復する2つのプロジェクトで6億5000万ドル(約860億円)を超える資金を調達した。

1つ目のプロジェクトである自然資本投資戦略では、農林業や環境資産のリジェネラティブな管理による環境改善と長期的経済リターンの実現を目指す。最初に投資が行われるのは、スペイン・エストレマドゥーラ州で400ヘクタールの湛水灌漑農地をリジェネラティブで高価値のアーモンドの栽培地に転換し、特定の地域を生物多様性の向上のために割り当てる事業だ。

2つ目はネイチャー・ベースド・カーボン戦略(NBCS:自然を基盤とした炭素戦略)。途上国の景観を修復し、気候変動の被害から回復する力(クライメート・レジリエンス)、地域社会への利益、高品質なカーボンクレジットを実現する生物多様性の大規模な改善を行い、グローバル企業が脱炭素目標を達成することを目指す。最初の投資はアフリカの自然資本や地域社会を回復させる事業だ。大規模な環境修復を手がける国際NGO「グローバル・エバーグリーニング・アライアンス」が率いて、ウガンダ、エチオピア、ケニア、ザンビア、タンザニア、マラウイの6カ国で約200万ヘクタールの土地を修復し、150 万世帯の小規模農家を直接支援することを目指す。すでにウガンダ、ケニア、マラウイの3カ国で取り組みが始まっている。

資金は欧州、米国、アジア太平洋地域など幅広い地域の金融機関や企業から集まった。このことは、ネットゼロやカーボンニュートラルの目標を掲げる企業や保険会社などの機関投資家の間で投資のメリットへの認識が高まっていることを示している。

自然を基盤とした解決策、生物多様性への投資、生物多様性クレジットへの関心が高まっていることを考えると、両投資プロジェクトは特に重要だ。それぞれのプロジェクトは、投資家に、自然に投資することで利益を上げるか、高品質のカーボンクレジットを受け取るかという選択肢を提供する。クライメート・アセット・マネジメントは、両戦略の資金調達を継続し、2023年中に新たな発表を行う予定だ。

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