木星の衛星が新たに7個見つかる 総数は91個に

【▲ 図1: 木星の既知の衛星のうち、84個の軌道 (Image Credit: S. S. Sheppard) 】

「最も多くの (自然) 衛星を持つ惑星は何か?」という質問の答えは、その時期によって変化します。

2019年10月8日から2023年1月5日までの間、最も多くの衛星を持つ惑星は土星でした。2019年10月8日に9個の衛星が加わったことで、土星の衛星の数は82個 (※1) となり、当時80個であった木星を上回りました。その後、2021年11月16日に1個の衛星が追加され、土星の衛星の総数は83個となりました。

※1…この数字は、土星のA環にある複数の小規模な塊、F環の周辺で観測された3個の衛星候補を含んでいません。これらはある時点での観測以降は行方不明となっており、最長でも数年程度しか持続しない一時的な塊であったと推定されています。

その一方、土星の後を追う木星は、2021年11月15日に1個、2022年12月20日に2個、そして2023年1月5日に2個の衛星が新たに追加されたことで、衛星の総数は84個となり、最も多くの衛星を持つ惑星の地位を土星からつい最近奪還した形となります。

関連:木星の衛星が新たに4つ見つかる 最多の衛星を持つ惑星の地位を奪還(2023年1月12日)

多数の衛星を発見していることで知られるスコット・S・シェパード氏は、新たに7個の木星の衛星発見を報告し、これらは2023年1月19日と29日の小惑星電子回報に掲載されました。シェパード氏の新たな発見によって、木星の衛星の総数は91個となりました。

これらの衛星にはまだ正式な名前が付いておらず、命名規則に従った仮符号「S/2021 J 2」「S/2018 J 3」「S/2021 J 3」「S/2021 J 4」「S/2021 J 5」「S/2021 J 6」「S/2018 J 4」が付けられています。仮符号からわかる通り、7個のうち2個は2018年に初観測されましたが、残りの5個の初観測年は2021年です (※2) 。発見が認められるまでに初観測から5年や10年かかることも珍しくない中で、これはかなり早いペースです。

※2…S/2021 J 6のみ、初観測の記録は2010年10月2日となっています。これは、2021年9月5日の初観測の後、過去のデータアーカイブを検索することにより、更に古い観測記録が見つかったためです。このため仮符号は2021年基準となっています。

【▲ 図2: 今回新たに加わった7個の衛星の概要 (グループは筆者による推定) (Image Credit: 彩恵りり) 】

【▲ 図3: 衛星の仮符号の命名規則 (Image Credit: 彩恵りり) 】

今回発見された5個の新たな衛星のうち、S/2018 J 4は特に興味深い性質を持っています。まず、木星や土星で見つかる新衛星の多くは逆行衛星 (惑星の自転方向とは逆の方向に公転している衛星) ですが、S/2018 J 4は順行衛星であり、珍しい発見です。また、S/2018 J 4の軌道傾斜角や軌道半径は「カルポ」に似ていますが、カルポの軌道は軌道離心率 (軌道の楕円度を表す数値) が0.4316というかなりの楕円形であるのに対し、S/2018 J 4の軌道離心率は真円にかなり近い0.0573です。

カルポは古在メカニズムと呼ばれる力学的なシステムによって、軌道に制約があることが知られています。木星の衛星同士の重力相互作用により、カルポの公転軌道の傾きは一定の範囲内に抑えられているためです。この値を超えてしまうと、軌道が木星のガリレオ衛星付近に達する極端な楕円軌道に入ってしまい、ガリレオ衛星に衝突するか、もしくは木星の周回軌道からはじき出されてしまいます。その独特な軌道から、カルポは「カルポ群」に属する唯一の衛星となっています。

このような性質を持つカルポと似たような軌道を公転しているS/2018 J 4もまた、力学的に注目度の高い衛星となるはずです。S/2018 J 4はカルポ群に属する第2の天体か、あるいはカルポ群とも異なる独自のグループに属する天体かもしれません。

木星と土星の衛星が実際にいくつあるのかは不明です。例えば木星では、直径800m以上の大きさを持つ衛星は600個あるとも推定されています。望遠鏡の精度向上によって、これからも多数の衛星が発見される可能性は十分にあるでしょう。つい先日もシェパード氏の発見報告に基づいて木星の新衛星発見の解説記事を執筆しましたが、これほど早く次の報告に触れるとは筆者も予想外でした。今後も予想外の早さで次の発見報告があるかもしれません。

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文/彩恵りり

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