<社説>平和ガイドアピール 切実な声、重く受け止めよ

 沖縄戦の継承に取り組む平和ガイド7団体が、「日米両政府に戦争しない・させないためのアピール」を発表した。「去る大戦のすべての犠牲と沖縄戦の教訓に鑑み、国権の最高法規の憲法第九条を厳守し絶対に再び日本政府が戦争に突入することのないようここに厳しく訴えます」という内容だ。県には世論喚起に向けた県民大会開催を求めた。 沖縄戦に動員された元学徒らでつくる「元全学徒の会」も沖縄の戦場化に反対する声明を出したばかりで、沖縄を含む南西諸島の軍事力強化への危機感と戦争反対の声が県内で広まっている。

 「日本に戦争をさせない」「沖縄を再び戦場にさせない」という沖縄戦を体験した当事者らの訴えは非常に重い。この切実な声を、日米両政府はじめ県民や国民、世界の人々もしっかり受け止めなければならない。沖縄戦のような戦争の過ちを繰り返さないとの誓いを新たにし、県民大会などを通して軍事力強化に反対する世論を高めていくべきだ。

 アピールは「台湾有事」について日米両政府が「軍事力増強競争をエスカレートさせて力で抑え込もうとしている。このようなことで戦争を止めることはできない」と批判。ウクライナの惨状にも触れながら「沖縄戦でも最初に狙われたのが軍事基地・軍隊だった。いかに軍備増強しても攻撃目標にされる」と指摘した。

 背景には日米による軍事演習の激化や先月の安保関連3文書の閣議決定がある。

 昨年11月の軍事演習「キーン・ソード23」では、民間港である中城湾港に多くの自衛隊車両が陸揚げされた。与那国島では与那国空港から陸自与那国駐屯地までの公道を戦闘車両が走行した。アピール文にあるように「戦争前夜」さながらの光景である。

 安保関連3文書には、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有や軍事力の大幅な増強が盛り込まれ、憲法がうたう「戦争の放棄」の否定、専守防衛の原則からの逸脱が指摘されている。

 岸田文雄首相は5年間で43兆円の防衛費増額と、その財源確保のための増税方針を打ち出した。そもそも専守防衛を逸脱する内容の軍事力強化にもっと危機感を持たねばならない。その根本の議論が欠けている。軍事力強化を前提とした財源確保や増税の在り方の議論にすり替えてはならない。

 軍事力強化は、相手国の軍拡や、日本の基地や軍隊の標的化を一層促す。「抑止力」になるどころか、緊張をさらに高める「安全保障のジレンマ」を生む。

 元全学徒の会は、日本政府に対し、かつての侵略戦争への反省と教訓を踏まえ「今すべきことは、いかに戦争をするかの準備ではなく、戦争を回避する方策を取ることだ」と外交努力を求めた。政府はこの要求を重く受け止め、安保関連3文書を撤回し、軍事力強化を断念すべきだ。

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