演劇の可能性はすごい!/舞台俳優・演出家 有門正太郎さん

西日本新聞社北九州本社が制作するラジオ番組「ファンファン北九州」。地元新聞社ならではのディープな情報&北九州の魅力を紹介しています。ラジオを聞き逃した人のために、放送された番組の内容を『北九州ノコト』で振り返ります。

エール(北九州市子ども若者応援センター)でのワークショップ

甲木:おはようございます。西日本新聞社 ナビゲーターの甲木正子です。

梁:同じく、西日本新聞社の梁京燮です。

甲木:梁さん、以前この番組に出て頂いた西本さんを覚えてますか?

梁:覚えています。

甲木:引きこもりの女子の支援(北九女子一歩会)をしている方ですが、今日のゲストは、その西本さんから紹介された方なんです。それでは早速お呼びします。北九州を拠点に活動されている、舞台俳優・演出家の有門正太郎さんです。よろしくお願いします。

梁:よろしくお願いします。

有門:よろしくお願いします。

甲木:西本さんが紹介してくださったっていうのは、実はその演劇を使ったワークッショップをされているということで紹介されたんですよね。それはどんな内容なのかを教えて頂きますか。

有門:元々、西本さんと知り合ったのは、僕も行かせてもらっている所で「北九女子一歩会」の前の「エール」という所にいらしたんですよ。

甲木:「エール」というのは、「北九州市子ども若者応援センター」ですね。

有門:そうです。そこでの繋がりで僕は今、「北九女子一歩会」の活動もしていて、西本さんから「エール」にも是非来てほしいと言われたことが知り合った経緯です。ワークショップの内容としては、自立支援だったり、就労支援の側面があるので、不登校とか、あとは障害者の手帳を持たれている方々が来る場所なんですね。もう一回社会に出るために「エール」でみんなとコミュニケーションを取ったりとか、社会に出ることを勉強する場所ですけども、メインは作品作りですね。今まで数回行っていて、今年度で6回目です。最終的に作品を作って発表するのが、大きな流れです。

甲木:人と話すのが苦手とか、コミュニケーションが苦手っていう人に、演劇作品を作ってもらうということですね。

有門:そうですね。一緒に作るという感じですね。演劇の良さって、みんなで一つのことを作ることか達成感とかで、お互いを認め合うことは、演劇ですごく大切な部分なんです。 エール に来られている方々は、繊細なので、繊細さもすごく芸術との相性がいいんですよ。

作品作りの楽しさと苦労

甲木:実は私たちも一度、ワークショップを拝見させて頂いているんですよね。

有門:はい。その節はありがとうございました。

甲木:“空っぽのクレヨン箱”ていうお芝居を、皆さんで台本読みをしていましたね。

有門:そうですね。本年度はそれを人形劇にしていこうということです。やはり、出演したい方も、恥ずかしい方もいらっしゃるので、人形劇にすると人形を動かす人や台詞を言う人、人形を作る人など裏方の仕事もあるので、その中から選べると様々な関わり方が出来るので今回は人形劇にしました。

甲木:人形を動かす方もすごく上手ですよね。

有門:そうなんですよ。そこで繊細さが生きてくるんですよ。「これをどういう風に扱ってあげると良くなるんだろう」とか言ったりして、すごく丁寧なんですよね。その繊細さは、僕たちが勉強させてもらうぐらいです。お芝居も同じで、基本的に自分のためにやるんじゃなくて、相手のためにやる芸術なんですよね。交流を持たざるをえない構造にもなってるんですけど、みんながお互いをケアしながらやっていかないと先に進めないんです。例えば「ここをこうしましょうか?」って聞くと、「そうしてくれると嬉しい」とか「助かった」とかで、交流を持つことができるんです。

甲木:でも、ご苦労もされているところもあるんでしょ?

有門:そうですね。どうしても初めて会う方とは怖いとか目が合わせられないとか、人との距離が近くなると震え出す方もいらっしゃいます。それで最初はすごく丁寧に入るんですよ。人によっても症状とか距離感も違いますので、石橋をたたいて渡る感じですね。一旦仲良くなって次の回まで一カ月ぐらい空きますから、また元に戻ったりすることもあるんですよ。3歩下がって2歩進むみたいな感じです。だからこそ、そこでできた信頼関係は強固なもので、そこで信頼関係ができて、いつでも心を開いてくれるようになります。最初見学に伺いたいと言われたときに、何度か「今回は、ちょっとご遠慮ください」と言ったのは、周りに誰がいるかですごく影響があるので、そこを丁寧にというのを心がけています。

甲木:私たちが見学に行ったときは、結構暖まっていた感じの時ですね。

梁:皆さん、とても仲良かったですよね。

甲木:小道具を担当している方から、「私がこの絵を描いたんです」と教えてくれたんですよ。

有門:びっくりしました。最初は全々違っていましたから。

甲木:そうだったんですね。そのでき上がった作品を公開できたらいいですね。

有門:はい。良い作品になっているので、公開できるように掛け合ってみたいと思います。

有門さんの人柄

梁:有門さんは人の良い所を引き出す力がすごくある方ですね。

有門:やはり、僕は人が好きなんですよね。人の魅力をどうやって皆さんにお届けできるかというのが好きなんです。だから根っからの俳優なんだと思います。

甲木:有門さんには、安心感がありますよね。

梁:そうですね。有門さんを前から知ってるような感じがしますからね。

甲木:安心感って心理的安全性のことですごく大事って言うから、それは有門さんの才能なんだと思いますよ。

有門:それは両親に感謝ですね。持って生まれたものだと思います(笑)

梁:あと感動したのが、演劇が自分のためではなく相手のために演劇をするという、良い言葉を聞いたなと思いました。

有門:僕らが若いときは、「相手を王様と思いなさい」と言われました。王様のために何ができるかと考えたら、「自分でやることが見えてくるでしょ」と言われてました。

甲木:そうなんですね。

有門:相手も、僕のことを王様と思うんですよ。

甲木:お互いを敬うということですね。それは会社でも通じることかもしれませんね。

俳優としての有門さん

甲木:俳優になるきっかけをお聞きしたいのですが。

有門:僕が保育園に行ってる時に、お遊戯会でおむすびころりんのおじいさん役をしました。それを僕の祖父母が見に来てくれて、すごく喜んでくれたんですよ。そこが原風景みたいな感じで、今もはっきり覚えています。こういうのをやったらすごく喜んでくれるんだって思ったのが、多分きっかけだと思います。

甲木:そうだったんですね。保育園まで遡るんですね。

有門:そうなんですよ。だからまたいつかやりたいってずっと思ってたんですよね。小学校もお遊戯会でお芝居やってましたし、中学、高校と大学とずっとお芝居をやりたいと思いながらも、思春期で恥ずかしいとか機会に恵まれないとかで、東京に行くしかないなと思ってたら、たまたま劇団があることを知ったのが、ずっと所属していた、 「飛ぶ劇場」という劇団なんです。

甲木:北九州市の「飛ぶ劇場」ですね。有門さんは「富良野塾」にもいらしたそうですね。

有門:そうです。飛ぶ劇場に1年いて、1年経ったら後輩は入って来るわけです。その後輩たちに稽古場の予約の仕方しか教えてない自分が、「これはいかん、ちゃんと勉強したい」と思っていたときに、たまたま富良野塾が公演に来ていたんです。その公演を見て、「なんで僕は向こうにいないんだ。何で客席にいるんだ」っていうのが悔しくて受験したんですね。

甲木:そうなんですね。それで合格して。北海道に行かれたんですね。

有門:ライターと俳優の養成をする2年生の自給自足の塾です。家を建て、牧場でも働き、農家も行きました。そんな感じです。冬場はお仕事ができないので、どちらかというとお芝居三昧で、全国ツアーに行ったりとか、もうひたすら雪かきかお芝居かという感じです。夏場はできるだけ1年間のお金を稼ぐために仕事です。もちろんレッスンもありますが、基本は仕事です。よく俳優である前に人間であれって言われていました。とりあえず人間生活をいろいろ体験することが一番の俳優の修行なので、「一つ一つ真剣にやりなさい」って言われていましたね。

甲木:それは、演技に出るということですか?

有門:積み重なる人間の垢みたいなものが出るんでしょうね。

甲木:それが、倉本先生(富良野塾 開設者)の教えなんですね。

梁:大変ですね。

有門:そうですね。二度とこのような経験はしたくないけど、あの経験があったから今があると思います。

甲木:なるほど。そうなんですね。そして富良野塾を2年終えて、飛ぶ劇場に帰ってきたということですね。

有門:元々、帰るつもりで富良野塾に入りました。劇団を大きくしたくて、丁度その頃、北九州芸術劇場もできることが決まり、また劇団としても、毎年東京公演もやってました。で、そういう意味で、なんか僕の中で帰るっていう前提だったんですけど、人間って不思議ですね。2年するとやっぱ東京に行きたくなるわけですよ。その時に先輩に相談して言われた言葉がすごく印象的で、「なかなか人から必要とされることってないから、一回帰って一歩踏み出してみたら。それでも東京に行きたいと思ったらそれからでも遅くないんじゃない」って言われて、今に至ってます。

甲木:良い助言を頂きましたね。

有門:ほんとに、ありがたい先輩に恵まれています。

甲木:今、エールの若者ワークショップで一緒に活動されていらっしゃる俳優の門司さんも飛ぶ劇場の仲間ですよね。

有門:そうです。僕の妻です。

甲木:えっー!そうだったんですね。

有門:はい。劇団で知り合って結婚して、今、中学校2年生の息子がいます。

甲木:お二人を見ていて、良い仲間だなーと思ってたんです。

有門:それは多分、夫婦の息が出ているのかもしれないですね。(笑)

梁: あうんの呼吸ですね。

コロナ禍での気付き

甲木:ところで、コロナでご夫婦となるとリスクも一緒だと思いますが、俳優とか舞台関係者の証明とかの人も含めて、もう皆さん大変だったのではないでしょうか?

有門:そうですね。公演も中止になったりしましたので。

甲木:その時、自分の演劇ができないっていう辛さと、生活者としてご飯を食べて行かなければという両方の辛さがあったと思うんですけど、どうやって乗り越えられたんですか?

有門:そうですね。コロナになって演劇人同士、稽古場でも会わなくなったので若い子から先輩までまで声かけて、枝光にあるアイアンシアターを借りて集まり、ちょっとした座談会開いたんですよ。何が苦しい?とか、僕らの仕事ってなんなんだろう?みたいなことをシェアするだけで、だいぶ楽になったとみんな言いますね。良い意味で見つめ直す機会になりました。その中でも一番気付けたのは物を創ることを辞めなさいとは言われてないな、物は創り続けていいんだ。そこが自分の中で演劇をやっていて良かったと思い、これは僕の中で結構精神安定剤になりました。

甲木:なるほど、いろんな気付きがあったんですね。

チャレンジしたい事

甲木:これからチャレンジしたいことはありますか?

有門:今後は、一人芝居をやろうと思っていまして、俳優業だけで贅沢させてもらおうと思っています。

甲木:それこそ倉本先生が言っておられたように自分の体一つですね。自分でしか表現することができないからですね。すごく自分を追い込みますね。

有門:やはり俳優業が好きなんでしょうね。

甲木:楽しみにしています。その時は是非、西日本新聞にお知らせください。本日は、北九州を拠点に活動する俳優・演出家の有門正太郎さんに、お話を伺いました。どうもありがとうございました。

梁:ありがとうございました。

有門:ありがとうございました。

〇ゲスト:有門正太郎さん(俳優・演出家)

〇出演:甲木正子(西日本新聞社北九州本社)、梁京燮(同)

(西日本新聞北九州本社)

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