雪と氷のRoCスウェーデン大会は、国別のソルベルグ親子に続きエクストロームが最多勝に並ぶ4勝目

 あらゆるタイプの車両、あらゆるカテゴリー、あらゆる出身国のスタードライバーが勢揃いし、世界一の栄誉を競う『レース・オブ・チャンピオンズ(RoC)』の2023年大会が1月28〜29日にスウェーデンのピーテオで開催され、初日の国別対抗ネイションズカップでは、ノルウェー代表のペター&オリバーのソルベルグ親子が連覇を達成。そして日曜の個人戦では、かつてのミハエル……そして今回のミックと、シューマッハー親子を撃破したマティアス・エクストロームが、歴代最多に並ぶ自身4度目の優勝を飾っている。

 北極圏からわずか100km程度、凍ったバルト海を望む静かな街ピテ・ハヴスバッドに設定された特設トラックでは、今年もF1を筆頭にF2、インディカー、ル・マン、Wシリーズなどサーキットカテゴリーの実力者たちや、WRC世界ラリー選手権にWorldRX世界ラリークロス選手権、そして新興グローバル選手権のナイトロRXや、北米最高峰のエクストリームスポーツでもあるゲームズ経験者など、あらゆるペアがチームを組み、国や地域の誇りをかけて勝負に挑んだ。

 昨季に続き雪と氷の“パラレル・アイス・トラック”が設定されたコースでは、フル電動モデルの『クプラ・アーバンレベル・コンセプト』や、QEV社製ユニットを採用した『ゼロイドX1』(RX2e用)電動ワンメイク・ラリークロス車両に、今季からナイトロRXの最高峰クラスで運用される水素スタック搭載の『FC1-X』、そしてバイオ燃料にスイッチした『ポラリスRZRプロXP』のRoC復帰など、内燃機関モデルを含め多くの車種がスタンバイされた。

 その初日の国別対抗で主役を演じたのは、チーム・ノルウェーとして参戦したWRC&WorldRXチャンピオンの父ペターと、幼少期からラリー&ラリークロスの英才教育を受けてきた息子のオリバーという昨年度覇者の親子ペアに。

 改めて王者としてタイトル防衛に挑んだふたりは、路面コンディションの変化を織り込んで伝統的なグループステージではなく“ストレート・ノックアウト・システム”と呼ばれる、各ドライバーによる4ヒート制で勝ち上がりを決める勝負のなか、マティアス・エクストローム/ヨハン・クリストファーソン組のチーム・スウェーデンや、セバスチャン・ローブ/エイドリアン・タンベイ組のチーム・フランスなど、次々と強豪を撃破していく。

 さらにF1引退直後のセバスチャン・ベッテル/ミック・シューマッハー組のチーム・ドイツや、トラビス・パストラーナ/タナー・ファウスト組のチームUSAなども敗退し、ファイナルはブラジル出身の2022年FIA F2王者フェリペ・ドルゴヴィッチと、ベルギー出身のティエリー・ヌービルが組んだチーム・オールスターズが相手となった。

 最初のヒートこそ、現役WRCスターの意地を見せたヌービルが元王者のペターを退けたものの、そこからの2ヒートはオリバーとペターが、親子ともども真夏の30度だったブラジルから氷の世界に越境してきたドルゴヴィッチを仕留めると、最終ヒートではオリバーがヌービルに対して決定的な勝利を収め、見事にネイションズカップ連覇を成し遂げた。

「誰もがRoCを愛しているが、今日は緊張した! 走るたびにコンディションが変化するから本当にミスを犯しやすかった」と、まずは安堵の言葉を繋いだ父ペター。

「まさに“butterflies in my stomach(ソワソワして落ち着かない、緊張する)”って感じだけど、時間が来たらコースに出て、自分のすべきことをするんだと集中した。セバスチャン・ローブは遅れて到着したから(スタート1時間前にヘリで会場入り)公平な準備をするチャンスはなかったが、彼を倒すのは非常に楽しかったね(笑)。そこからどんどん、気分が良くなったよ!」

F1引退直後のセバスチャン・ベッテルや、開始1時間前にヘリで現地入りしたセバスチャン・ローブの豪華“セバスチャンズ”共演も
トム・クリステンセンとのチーム・ノルディックとして出場した地元出身フェリックス・ローゼンクビスト
今季からナイトロRXの最高峰クラスで運用される、水素スタック搭載の『FC1-X』も登場した
「今日は多くのレースに勝ったし、セバスチャン・ベッテルを倒したことは明らかに特別なことだった」と、惜敗の2位に終わったティエリー・ヌービル

■個人戦はミックとの争いを制したエクストロームが戴冠。しかし車中では思わぬトラブルも

 その父をして「オリバーに関しては、彼が速いことは知っていたが、去年と同じように彼は今日も僕を救ってくれた」と、そのスピードを賞賛された息子も、連覇達成にホッと安堵の心情を明かした。

「まずは連覇できたこと、とくに昨季WRCでのチームメイトでもあったティエリー・ヌービルとの最終ヒートに勝てたことは、素晴らしいことだったね。僕は彼に負けっぱなしの傾向だったから、ここでやり返せて良かった(笑)」と続けたオリバー。

「ローブ、エクストローム、クリストファーソンが相手で極度に緊張したけど、今日はこんなに速く走れるとは知らなかった。一貫したラップタイムがあるときは、無理をせず、いつもどおりの運転を心掛ける。それがうまくいって、今日は最高の気分だね」

 明けた日曜正午から個人の直接対決が繰り広げられる真のRoCが開幕すると、そのヌービルらを撃破したエクストロームと、同じく同郷ベッテルを降したミック・シューマッハーがファイナリストとして対峙した。

 するとグランドファイナルは意外な展開となり、メルセデスF1のリザーブドライバーとなったミックに、2ヒート差をつけてエクストロームが勝利を飾る結果に。これにより2007年のロンドン・ウェンブリースタジアム、2009年の中国・北京オリンピック・スタジアムなどに続く、自身4度目のRoCチャンピオンを獲得した。

「RoCは僕のキャリアにおいて大きな意味を持っている。そこで4勝できたことは非常に特別で、スウェーデンでそれを達成できたことはさらに格別だ!」と、喜びを語ったエクストローム。

「パリのスタッド・ド・フランスでセバスチャン・ローブに対して初めての決勝で勝ち、その後はロンドンと北京でミハエル(シューマッハー)と2回の決勝を戦ったから、今日の決勝でミックを見るのはとても感動的だったよ」

 しかし実際のファイナルでは、DTMドイツ・ツーリングカー選手権2冠、そして2016年のWorldRX王者でも予期しなかった、まさかのトラブルが発生していたことも明かした。

「グリッドでは『全力を尽くす』と自分に言い聞かせ、スタートは良かったんだけど、半周後には何かに火がつき、少し煙が立ち始めた。もちろん、それは計画になかったね!(笑)」と続けたエクストローム。

「僕のコドライバー(同乗者)は停止したがったが、ドライブしている僕自身にはあまり興味がなく、気にしなかった。『OK、何が燃えた? これはフロントガラスのヒーターに違いない。それで『耐火手袋をはめているから怖くない……』と思って、見つけた瞬間に掴んだんだ」

「幸いなことにそれは止まり、その一連の過程でスロットルからは足を離さなかったから、タイムロスはあまりしなかった。消火器を押したくなかったのは確かだね(笑)」

ブランド大使も務めるマティアス・エクストロームがドライブするフル電動モデルの『クプラ・アーバンレベル・コンセプト』
今回も伝統的なグループステージではなく“ストレート・ノックアウト・システム”と呼ばれる、各ドライバーによる4ヒート制で勝ち上がりを決める勝負となった
勝者エクストロームを祝福したミックだが「金曜日にセブ(ベッテル)が言ったことに同意する。 ラリー出身者がこのイベントに持ち込むことができる知識の量、つまりクルマを感じ、それぞれの瞬間に何をすべきかを正確に知ることは、僕がまだ持っていないもの」と認める
車内では“ボヤ騒ぎ”に見舞われながら、マティアス・エクストロームがローブやディディエ・オリオールに並ぶ、歴代最多4度目のタイトルを獲得した

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