インフレのピークアウトか。「株式投資には好ましい環境になってくる」と考えうる要因

日経平均、TOPIXともに昨年12月20日の急落、いわゆる「日銀ショック」の前の水準を取り戻しました。株式市場が「日銀ショック」を乗り越えたと見ていいでしょう。その背景は、市場が日銀の政策変更を「実質利上げ」ではないことをようやく理解したということだと考えます。


昨年12月20日の日銀金融政策決定会合後、日本株相場は年初の大発会にかけて大きく崩れました。決定会合の翌日、主要紙の見出しは、「異次元緩和の転換」、「実質利上げ」などの見出しが並びました。メディアや市場関係者は日銀の政策変更を「実質利上げ」と受け止めたのです。

しかし、当初から黒田総裁が繰り返してきたように、日銀の政策修正は「実質利上げ」であるはずがありません。日本では政府や経済団体がそろって企業に賃上げを要請しています。一方、家計などでは物価上昇を受け入れる素地が高まっています。この機に乗じて賃金上昇の流れにつなげようというムードが日本中で高まっています。今年の春季労使交渉(春闘)が事実上始まりましたが、昨年に比べ高い賃上げの意向を前倒しで表明する企業が相次いでいます。こうした流れに水を差すような利上げ=金融引き締めをする理由も意図も日銀にはないのです。

日本のインフレと米国のインフレの違い

しかし、一方でインフレが高進する中、いつまでも金融緩和を続けて良いのか、という批判もあります。27日に発表された1月の東京都区部の消費者物価指数は、変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が104.2となり前年同月比で4.3%上昇しました。3.9%上昇した22年12月から伸び率が拡大し、1981年5月(4.3%)以来、実に41年8カ月ぶりの水準となりました。

たしかに日本でも物価が上昇していますが、日本のインフレはディマンド・プル(需要によるインフレ)の要因がほぼありません。日銀の展望レポートが述べている通り、輸入物価の上昇、すなわち原油など資源価格の上昇と円安が招いたコスト・プッシュの要因がほとんどです。この先を展望すれば、すでに原油価格は大幅に下落し、為替も円高に巻き戻っていることから、この先いずれは、物価上昇率は鈍化していくはずです。おそらく23年の第1四半期がピークで、24年末までに2%を下回る水準に徐々に低下するでしょう。

日本の物価上昇は上述の通り、米国のように構造的な人手不足による賃金上昇がサービス価格を押し上げることが懸念されるインフレとはまるで状況が違います。だから、そもそも利上げで景気を失速させてもインフレ抑制にはならないのです。

そして先般開催された1月の金融政策決定会合の結果は「現状維持」でした。加えて資金供給オペも変更し、徹底的に金利を上げない姿勢を改めて示したのです。この日銀の明確なメッセージで株式市場は落ち着きを取り戻しました。金融緩和を継続し、この春の賃上げをしっかり促す。それが、日本経済が真にデフレを脱却する道筋であるとの日銀の意思表明です。これに株式市場が賛同した結果が、足元の株価持ち直しにつながっています。

利上げの停止で景気後退のリスクは低くなるか

もうひとつの株高の背景は、欧米でのインフレ鈍化で利上げ停止の観測が高まっていることです。米国では消費者物価指数(CPI)、卸売物価指数(PPI)ともに鈍化傾向が鮮明になっています。実際の物価が落ち着いてきたことから、FRBが重視するミシガン大学消費者信頼感指数でも、1年先のインフレ期待が4.0%と前月から0.4ポイントも大きく低下しました。賃金インフレのほうも伸びが鈍化しています。雇用統計では平均時給の上昇率が低下し、アトランタ連銀が算出する賃金トラッカーの上昇率も鈍化傾向が目立ってきました。

こうしたことから米連邦準備理事会(FRB)が1月31日~2月1日に開く米連邦公開市場委員会(FOMC)で、利上げ幅を通常の0.25%に戻すという観測が高まっています。FRB高官らが対外的な発信を控えるブラックアウト期間に入る直前に、ウォラー理事は「0.25%の利上げを希望する」と述べました。金利先物市場の動向から利上げ確率を算出するFED Watchでは0.25%の利上げの織り込みが99%超となっています。

市場の予想は次の3月会合まで0.25%の利上げを続け、政策金利を4.75~5.0%にするというものですが、そこで利上げが一旦、停止になるとの見方が主流となってきました。つまり、政策金利の到達点が想定以上に高くなるリスクは低くなってきたということです。

こうなると景気後退のリスクも低くなります。景気後退に陥ると見られている理由は、インフレが収まらないため中央銀行の利上げが長期化する、ということでしたが、その前提が崩れつつあります。

象徴的なのは欧州です。1月のユーロ圏の購買担当者景気指数(PMI)は総合で前月比0.9ポイント上昇し、50.2と好不況の境である50を上回りました。これでPMIは10月を底に3カ月連続の上昇です。

景況感改善の要因で大きいのはインフレの緩和期待です。記録的な暖冬で欧州のガス価格は急低下し、昨年11月末に比べると6割も安くなっています。こうしたことから12月のユーロ圏と英国の消費者物価指数の前年同月比はそれぞれ2カ月連続で前月を下回り、欧州でもインフレのピークアウト期待が出ています。

インフレの低下が景況感の改善につながるというのは、今後の重要なポイントのひとつです。欧州の場合は顕著な例ですが、今後同様のことが世界で起きるでしょう。株式投資には非常に好ましい環境になってくると思われます。

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