両親が覚悟の独占告白!国政を動かす「小川さゆり」の真実【スクープ!ルポ統一教会3】|福田ますみ メディアが連日報じる元宗教二世・「小川さゆり氏」の壮絶な体験。日本外国特派員協会でも涙ながらの会見を行い、与野党のヒアリングに応じるなど、その発言は国政にも大きな影響を及ぼしている。だが、彼女の発言は果たして本当なのか? なぜ一切検証されないのか? 「このままではいけない」と彼女の両親が決意の告白を行った。当事者の声を追ったノンフィクション作家・福田ますみ氏渾身のルポ。

「小川さゆり」の誕生

“元統一教会教会長の娘”を名乗る小川さゆりさん(仮名・27歳)は昨年、まさに時の人だった(いや、もしかすると今年もそうかもしれない)。

連日、いくつものメディアに出演し、与野党の政治家によるヒアリングに応じ、日本外国特派員協会での記者会見も行った。この記者会見からほどなくして、岸田首相は、それまでその要件を満たさないと消極的だった旧統一教会への質問権行使を決断した。この質問権行使は、旧統一教会の解散請求を見据えた措置である。

並行して、旧統一教会の問題を受けた被害者救済新法の審議が異例の速さで進み、12月7日には与野党が合意。12月9日に小川さんは国会に参考人として招致され、涙ながらにこう語った。

「私は毎日、現役信者や一部の方々から“うそつき”“偽善者”といわれ、その言葉を意見の一つとして受け止めようとしましたが、自分の器では到底受け止めきれず、死んだほうがましなぐらい体調を崩したこともありました。本日、国会で正式な参考人として発言させていただけることを感謝いたします」

そしてこの翌日、12月10日に被害者救済法が成立した。誹謗中傷にも負けず、質問権行使、新法成立に大きく貢献した小川さんは、旧統一教会の解散を望む大方の国民からすれば、まさに称賛に値する人物である。

しかし一方、自らが国会で図らずも言及したように、一部から彼女の発言の信憑性に強い疑義が囁かれていたことも事実である。その発言はその時々でコロコロ変わり、時系列などもつじつまが合わないことが多いのだ。

いうまでもなく、公の場での発言には重大な責任が伴う。万が一、虚偽の訴えが国の政治を動かしたとなれば、わが国の政治史の汚点として後世に残ることになる。

私は昨年暮れ、三重県のある場所で、小川さゆりさんのご両親に会った。痩身で背が高く、いかにもインテリといった雰囲気の父親と、小柄で笑顔の優しい母親。壮絶な宗教虐待と高額献金による貧乏を強いられたとして実の娘から糾弾されている身だ。「たしかに親がこれだけ批判されるのは辛い。でも、誤解が元とはいえ、娘が苦しんできたことも事実なので娘を責めることはできません」という。

結婚して首都圏で暮らしている長女がメディアに露出し、旧統一教会に対する被害を訴えているのを両親が知ったのは7月20日のことである。父の義彦さん(仮名)がいう。

「地元の教会の教会長に教えられて、日本テレビ系の夜のニュース番組news zeroの7月15日分の録画を見ました。もう詳細をはっきり覚えていませんが、娘と電話で話した私の次男が、『子育てのストレスがあって気晴らしにやっているんだと思うよ』というので、その時は私もそれほど深刻には捉えませんでした。 ところがその後、8月4日放送のMBSニュースの録画を8月15日に見て深刻になりました。7月9日に会った時まで良好だった親子の関係がどうしてここまで変わってしまったのか、事実にないことがいくつも出てきて戸惑いました。しかし、親として不足だったことがあるからではないかと反省し、翌日16日に熟考して書いたLINEを娘に送りました。 娘のツイッターに気がついたのはそのあとです。事実でないことをたくさん言っていることに加え、教会への強い恨みと敵意を感じ、娘の精神状態が心配になりました」

小川さんは自分でも明かしているとおり、過去に何回か精神的な不調を訴えて通院や入院をしている。両親はなにより娘の心身を案じていたのである。

だが、両親が案じるのはそれだけではない。 「娘が発言していることは個別の家庭のことに過ぎないのに、それによって教会のイメージ、二世のイメージが著しく傷つけられてしまった。もしこの流れで解散にまで至ってしまえば、多くの教会員の心の支えであり大切にしているものが否定されることになり、その心痛を思うと大きな責任を感じます」

娘と教会のはざまで、両親の苦悩は深い。

ワイドショーで繰り返し報じられた場面。だが、事の真相は一切報じられない(画像/https://www.ytv.co.jp/miyaneya/article/page_l369w5f1xm9zz65j.htmlより)

小川さんが最初に注目を集めるようになったのは、父の指摘にあるようにツイッターである。

彼女はいくつものツイッターアカウントをもっているようだが、安倍元総理の暗殺事件によって旧統一教会がバッシングを浴びるようになると、「元統一教会教会長の娘」というアカウントを使って、信者である両親や教会がいかに悪辣かをこれでもかと言い募るようになる。

2022年7月13日のツイート(抜粋)。

〈小さい頃から貧乏を強いられ学校ではいじめられ、親は信者とランチに行っていました。私がバイトをし出すと親は給与を全て奪い、隠れて貯めたお金も私が精神病棟に初めて入院した際、勝手に引き落とされていました。入院した理由は介護になった祖母を家族で虐待していたこと
毎日祖母に対して早く死ねと罵声を浴びせる家族、暴力もありました。教会長だった父は「祖母と母の責任分担だ」と見て見ぬふり。母は婦人部長という地位を守るため今も借金しながら献金ノルマに勤しんでいます。
服を脱がされたり壮絶ないじめを受けたことを勇気を出して告白したのに、「神様がそれほどあなたに期待していたのね愛の試練だよ」と、全て神に置き換えられて言ったのを後悔した。
ただ純粋に私だけを見て、親としての言葉が欲しかった
社会に出ても仕事の人と馴染めず鬱になって引きこもってしまっていた頃天井しか見れない日々が続いた
家で優しく接してくれる母だけが救いだったが母は私のいないところで「あの子いつになったら働くんだろう、早くお金入れてくれないかな」と妹に愚痴っていることを知った時、脱会と家出を決意した
親が勝手にお金をおろしたことについては警察に訴えたが、家庭内のことは家庭内で解決してくれと言われた
犯人がしたことは肯定できないが、私も教会の幹部誰でもいいから殺したい、火をつけて燃やしたいと思っていたので、今の最愛の夫と出会っていなければ自分が犯罪者になっていたかもしれない
走り書いたので訂正があります。精神病になったのは信じていた親に搾取されたことがきっかけでした〉

また、彼女は前日の7月12日にも、同ツイッターに「統一教会炎上してんの楽しい笑笑 オンマンセー!!!!」と書き込んでいる。オンとは、韓国語で「億」の意味だそうだ。つまり「億万歳」、日本語にすれば「万々歳」というようなニュアンスか。旧統一教会にバッシングが集中しているのを欣喜雀躍して見ている印象だ。

読む者には異様に映るが、ある意味、過激であればあるほどマスコミが飛びつきやすい。近畿地方をカバーするMBS毎日放送の8月4日のニュースに、彼女は「小川さゆり」の仮名で初めて登場した。自宅で家族とともにインタビューに応じたその内容は、大筋でツイッターでの発言と同様だが、より具体的になった部分もある。

メディアは小川さゆり氏の発言を検証したのか?(画像/https://www.mbs.jp/news/feature/kansai/article/2022/08/090318.shtmlより)

たとえば、幼い頃から貧乏だったと語る時、「お年玉は全部親に没収され、誕生日やクリスマスプレゼントは買ってもらえなかった」といい、お金がない代わりに自宅には壺や印鑑があったと話し、親が高額な献金をしていたことを示唆している。

脱会のきっかけは、祖母の介護だったという。介護に疲れた母親から強く当たられるようになり、そのストレスでパニック障害になったそうだ。

ただ、早くも矛盾がある。先のツイッターでは、「母は私のいないところで『あの子いつになったら働くんだろう、早くお金入れてくれないかな』と妹に愚痴っていることを知った時、脱会と家出を決意した」とある。

また、精神病になったきっかけ(精神病院に入院したきっかけ)は、ツイッターでは当初、「介護になった祖母を家族が虐待していたこと」としていたが、同じツイッターの最後で、「走り書いたので訂正があります。精神病になったのは信じていた親に搾取されたことがきっかけでした」と自ら訂正。ところが、このMBSニュースのインタビューでは、「介護に疲れた母親から強く当たられるようになり、こうしたストレスでパニック障害になった」と、再び大筋で元に戻ってしまっている。
インタビューによると、小川さんは脱会の前後の十九歳の頃に自殺願望が高まり、遺書を書いたそうだ。彼女はそれをクリアファイルに入れて保存していた。番組ではその遺書の一部を紹介した。

「お父さんお母さんがしてしまった間違いは、やはり消化しきれない。私が死んだのはお前らのせいだ。でも大好きだったこともVSじゃない。悔しい。悔しい。生きていたかった。愛し愛されたかった」

冒頭に記したが、小川さんは現在27歳である。テレビカメラが映し出したその遺書は、19歳の頃のものにしては紙が真新しく、しかも折り目がなく畳んだ形跡がない。遺書ともなれば、小さく畳んでどこかに隠しておくのが普通ではないかと疑問視する声がある。さらに、この遺書にも彼女はショッキングな言葉を書き込んでいた。

「最初はおばあちゃんを殺そうと思った。次に家族のだれか。誰でもいいから一人死んでくれれば~」

彼女は、介護が必要な祖母を家族が虐待していたことに心を痛めていたのではなかったか――。

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