「雪の妖精」シマエナガは、体重10倍の天敵とも戦う 「かわいいだけじゃない」本当の魅力、元警察官もとりこ

冬の春採湖に飛来したシマエナガ=北海道釧路市(山本光一さん撮影)

 体重はたった8グラム、真っ白でまんまる。北海道の野鳥シマエナガは、その愛らしい姿から「雪の妖精」と呼ばれる人気者だ。北海道釧路市を拠点に活動する自然写真家・山本光一さん(57)もとりこになり、写真集を出版した。その魅力は愛くるしさだけではないという。時に厳しい自然の中を生き抜き、ひなを守るため巨大な天敵にも立ち向かう、その姿に感銘を受けた。山本さんは元警察官。親身になってくれた先輩刑事が殉職した経験を持つ。実母も若くして亡くなり、息子たちは幼い頃に生死の境をさまよった。そのたびに命について考えた山本さん。小さな体で懸命に生きるシマエナガを通して、命の尊さを知ってもらいたいと願っている。(共同通信=阿部倫人)

シマエナガ(山本光一さん撮影)

 ▽巣を何度も無残に壊された。それでも…
 シマエナガとの出会いは約25年前。京都府警の警察官から、森林の保護や調査に取り組む財団に転職した。北海道に移住し、自然を学ぼうと毎日森に入ったときのことだ。初めの印象は「小さくてかわいい」。だが趣味のカメラで撮影を続けるうち、別の魅力に気が付いた。
 巣は、天敵のアカゲラによってしばしば壊されてしまう。するとシマエナガはすぐに同じ場所に作り直す。ほかの多くの鳥はまず他の場所へ逃げるのに。「何度も無残に壊されるんです。僕だったらこんなにすぐ立ち直れるかな」。シマエナガ以外の鳥と群れを作る場面も目にした。詳しい理由は解明されていないが「人間が学べることは多い」と感じる。

天敵のアカゲラ(右)と戦うシマエナガ(山本光一さん撮影)

 時には、体重が10倍以上あるアカゲラに挑みかかる。諦めずに巣を守り続けても、ひなが巣立ち直前に死んでしまうこともある。「厳しい自然の中では、命は本当にもろいんです」
 そう話す山本さん自身も、「命は突然失われる」と痛感する出来事を3度も経験している。

京都府警時代の山本光一さん=京都御所

▽母は43歳の若さで亡くなった
 山本さんが大学2年だった1988年3月、帰宅すると父が告げた。「お母ちゃん死んだわ」。最初は父の言うことを理解できなかったが、弟2人の涙を見ると現実なのだという実感が湧いた。原因は心不全。まだ43歳だった。
 「今朝『行ってらっしゃい』と元気に見送ってくれたはずなのに」
 家族の中心だった母が突然いなくなり、悲しみ以上に「わが家はどうなるのか」と当惑したのを覚えている。

未熟児で生まれ、保育器に入る山本さんの次男=1992年6月、京都府立医科大学附属病院NICU

 大学を卒業後、特技の柔道を生かして京都府警に就職。結婚し、1992年に生まれた双子の息子は超未熟児だった。すぐに連れて行かれた新生児集中治療室(NICU)では、息子たちの隣の保育器で寝ていた子どもが次々に亡くなった。「覚悟をしておいてください」。医師から告げられた言葉は、今でも脳裏から離れない。「運命だと受け入れるしかない。でも命だけは助かってほしい」。相反する気持ちの間で揺れ動いた。危機を脱するまでの約1週間ほど、時間を長く感じたことはない。
 2人はその後は健康に成長し、長男はロシア発祥の格闘技「サンボ」の日本代表として活躍している。

ロシア発祥の格闘技「サンボ」の世界選手権に臨む山本さんの長男=2014年11月、千葉県成田市

 3度目は1995年8月。先輩刑事が暴力団事務所を私服で捜査中、対立相手の関係者と誤認されて射殺された。警察官舎では山本さんの部屋の真下に住み、双子の息子が大変な時期に支えてくれた人だった。「職業柄、危険は常につきまとう」と改めて理解した。
 またも命について考えさせられた。ちょうど「警察官以外にもっとやりたいことがあるのでは」と疑問を抱いていた時期。「後悔しない生き方をしよう」と決めた。
 全く違った環境に身を投じようと、阿寒湖畔の森林保全や自然普及に取り組む「前田一歩園財団」の職員に採用され、31歳だった1997年4月、北海道に移住した。

絵本「春採湖しまえなが物語」を刊行した自然写真家山本光一さん=2022年8月

 ▽絵本にして読み聞かせたら大反響
 財団職員として働くかたわら、写真家としても活動し、これまでに写真集を3冊出版している。2022年6月には、交流のある釧路市の美術教員に無償で絵を描いてもらい「春採湖しまえなが物語」という絵本を制作した。
 絵本の主人公は、釧路市中心部に近い春採公園に住むシマエナガのつがい。アカゲラとの戦いやひなとの死別といったあらすじは、山本さんが実際に見た場面を元にした。釧路市内の書店で販売しているほか、「地元の子どもたちに読んでほしい」と、市内に27ある小学校全校に寄贈した。
 読み聞かせ会を開いたところ、子どもたちから「勇気ある姿に驚いた」などと大きな反響があった。釧路市内の元音楽教員からは、絵本をテーマに曲を作りたいという申し出を受け、2022年11月に「まんまるモフモフ」という歌が完成。歌詞はシマエナガの生態を紹介する内容で、今後、子どもたちによるレコーディングも検討中だ。

シマエナガ(山本光一さん撮影)

 「身近な自然から学べることはいっぱいあるんです。それを写真や絵本、曲などさまざまな形でたくさんの人に伝えていく。ようやく見つけた、自分にしかできないことのような気がしています」。山本さんは目を輝かせる。
 2022年10月からは、全国のソニーストアで巡回写真展「恋するしまえなが~写真集『まるごとしまえなが』出版記念~」を開催している。

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