柿の木にメジロ 残された実つつく 岡山の畑、忘れえぬ「木守」の味

柿を食べに来たメジロ=岡山市北区佐山

 品の良い甘さと柿の風味。丸い麩(ふ)焼きのせんべいで干し柿を練り込んだ餡(あん)を挟んだ和菓子「木守(きまもり)」。小学生の時、一度だけ食べたその味が忘れられない。土産に買ってきてくれた父親がその名前の由来を話してくれた。

 木守りとは柿の木に全部採らずに残された実のこと。翌年の豊作を願うとともに、小鳥や旅人が冬に飢えをしのげるように、との願いが込められているという。

 山の斜面を開いた岡山市北区佐山の畑。1月下旬、柿の木にメジロ、エナガ、シジュウカラ、ヒヨドリが交互に訪れた。冬の貴重な餌となっているのだ。「豊作だったのでだいぶ実を残しました」。畑を作る夫婦には包み込むような笑顔が浮かぶ。

 今では子どもたちが柿をかじりながら野山で遊ぶ姿はない。たわわに実った柿が収穫されることもなく、熟して落ちるのを見るのは切ない。

 見渡せばブドウのガラス温室が冬の日差しを受け鈍く輝く。高架になった山陽自動車道を行き交う車の音が、小鳥の鳴き声を消し去った。

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