『デンジャー・ゾーン』「日本語版へのまえがき」を特別公開! 早まる台湾有事を警告した2022年8月刊の話題の書『デンジャー・ゾーン 迫る中国との衝突』の第一人者による邦訳が完成。ピーター・ナヴァロ『米中もし戦わば』やマイケル・ピルズベリー『China2049』、グレアム・アリソン『米中開戦前夜』を越える衝撃作の「日本語版まえがき」を特別公開!

中国の脅威が日本の政策に革命をもたらしつつある

日本と中国は、何世紀にもわたって東アジアの覇権を争い、時には互いの存続を脅かすこともあった。

この長き対立の根源には地理的な事情がある。日本と中国は狭い地域に二つの大国として存在し、互いの重要なシーレーンにまたがって生きてきた。韓国、台湾、東シナ海という、日本の安全保障にとって重要な地域は、中国の安全保障にとっても重要な地域だ。

日本列島は、上海から東シナ海を隔ててわずか800キロ、船なら一日、戦闘機なら30分、ミサイルなら数分で通過できる距離である。日本は琉球諸島も統治している。ここは日本本土から台湾まで100キロほどにある、100以上の島々からなる列島である。中国の太平洋への最短ルートは、すべてこの島々の間のチョークポイントを通っている。

また、両国の利害は朝鮮半島をめぐっても衝突している。中国は北朝鮮の残忍な政権を同盟国として支え、日本は平壌の核兵器やミサイル運搬システムなどの脅威にさらされている。

日本の対応の一部は、米国と協力して弾道ミサイル防衛システムを開発することにあったが、これは逆に中国のミサイルの抑止力を低下させ、中国の安全性を低下させることになった。

本書で紹介する中国の侵略の脅威の高まりは、日本の国家政策に静かな革命をもたらしつつあり、日本を戦いの準備へと促している。アメリカの指導者たちが「大国間競争の復活」を宣言する何年も前から、日本の政府関係者たちは北京の企てを警告していた。

中国がさらに強力になり、台湾海峡での行動がより脅威になるにつれ、東京の懸念はさらに深刻なものとなっている。

「台湾が征服されるのを黙って見ているわけにはいかない」

日本の政府担当者たちの間では「嵐が迫ってきている」という感覚が強まっている。

2022年6月に岸田文雄首相は「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」と警告したし、同月には日本国民の約九割が「中国による台湾侵攻に備えるべきだ」と回答している。

ワシントンと同様に、東京でも戦争のリスクが最も高まる時期がいつになるのかについては意見が分かれている。だが日本が危機に備えなければならないことについては議論の余地はない。中国が台湾を武力で奪取すれば、日本にとっては大きな痛手となるからだ。

もし台湾が陥落すれば、日本列島の最南西端にある島々が無防備になる可能性がある。中国は日本にとって決定的に重要な貿易ルートを狭せばめることになり、尖閣諸島周辺での圧力を強めるなど、この歴史的なライバルを威圧することができるようになる。

1945年以降の日本政府は武力行使を嫌っているはずだが、それでも「台湾が征服されるのを黙って見ているわけにはいかない」と強く表明している理由はここにある。

日本が2027年までに防衛費をほぼ倍増させる計画を立て、南西諸島の一部を対艦ミサイルと防空施設を備えた強襲拠点にして、高品質の潜水艦艦隊を使って中国海軍を封じ込める計画を立てているのもそのためである。東京はまた、中国本土を狙うことができる先進的なミサイルの獲得にも動き出している。

ある意味で、日本は2020年代後半の「デンジャー・ゾーン」の脅威を、アメリカ以上に深刻に受け止めている。

その一方で、アメリカとの協力関係は深まりつつある。日米両軍は合同訓練を強化しており、今月には南西諸島で大規模な演習を行うなど、台湾をめぐる紛争が起きた場合に備えて共同作戦計画を策定している。また、1930年代から40年代にかけて近隣諸国を荒廃させた東京は、今やインド太平洋の安全保障の民主的な「支柱」となっている

日本はワシントンが最も頼りにする同盟国になろうとしている

ドナルド・トランプ大統領の下でアメリカが環太平洋パートナーシップ協定から離脱したとき、日本は中国の影響力に対抗するために、その協定を縮小した形でなんとか存続させている。日本の政府関係者は中国の拡大に対する歯止めを強化することを意図して、オーストラリアからインドまでの国々と安全保障パートナーシップの網を構築している。

東京は「自由で開かれたインド太平洋」を維持するというアイデアさえ生み出しており、この言葉は現在、ワシントンまでが採用している。日本は21世紀において、ワシントンが最も頼りにする「20世紀のイギリス」のような同盟国になろうとしているのだ。

次第に好戦的になっている中国の態度は、すでに日本の世界に対するアプローチに大きな変化をもたらした。

そして本書の目的は、東アジアの平和と安全に貢献する日本やアメリカをはじめとするすべての国が、ピークに達した中国の脅威に先んじるために、さらに多くのことをさらに素早く行う必要がなぜあるのか、その理由を説明することにあるのだ。

2022年12月12日
マイケル・ベックリー&ハル・ブランズ

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