「ちびまる子ちゃん」などの制作に携わった韓国作家が描く、懐かしい“あの日”を感じるアニメ『ジンジンとアキタ』

日本未公開の韓国アニメ映画作品を集めた特集上映「Cinem@rt韓国アニメセレクション」が2月9日(木)までの2週間限定で、シネマート新宿・シネマート心斎橋で開催されている。動画配信サービス「おうちでCinem@rt」でも先行独占配信中だ。今回はその中から『ジンジンとアキタ』の作品解説をお届けする。


韓国映画アカデミー(KAFA)が開催した2017年度長編デビュープログラムの選定作品として、制作・公開された本作。監督を務めたチョ・ジョンドクは、90年代に民間のワークショップでアニメーションを学び、大学卒業後に来日してアニメスタジオ勤務を経験したのち、帰国してKAFAの正規課程に入学した異色の経歴の持ち主だ。日本のアニメーションの中でも、優しく穏やかな雰囲気の作品に憧れていたという監督は、同様の作風を得意とするスタジオで『ちびまる子ちゃん』や『こんにちは アン』などの制作に携わりながら、研鑽を積んできた。

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20年近い努力を経てついに長編制作の機会を得た監督は、誰もが経験する少年時代の心の機微を、作品のテーマに選んだ。ジェヨンはわんぱくで元気いっぱい、という典型的な少年主人公ではない。口数は少なく、うれしい時も悲しい時も、一人でそっと感情をかみしめている。一方、彼の周りの大人たちは、どなり合いつかみ合いながら、素直に思いをぶつけ合い、それでも最後は互いを理解し合う。そんな人々の不器用な生き方を観察しながら、ジェヨンは父親の本当の気持ちを知り、少しずつ大人に近づいていく。

プロ野球リーグが始まった時の高揚感や、今では姿を消した犬食文化、小学校からの徹底した反共教育など、時代の光と影も、物語の随所に散りばめられている。舞台となった統営の港、釜山の古書店街などリアルに再現された当時の風景や、古いカラー映像を思わせる印象的な色彩も、見る者をそれぞれの“あの時”へといざなうだろう。

Text:田中恵美(ライター・編集者)

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