シド・ヴィシャス「マイ・ウェイ」ヘロインに溺れて夭折した破滅型パンクロッカー  合掌 2月2日はシド・ヴィシャスの命日です(1979年没・享年21)

1979年2月2日、シド・ヴィシャス急逝

1970年代の半ばのロンドン。ロックをストリートに戻そう!という当時産業化されたロックに対するアンチテーゼがパンクロックの起点だ。2023年時点でロックの歴史を俯瞰してみても、その象徴はセックス・ピストルズだと言えるだろう。

セックス・ピストルズは、77年に結成当初からベーシストとして参加、優れたソングライターとして楽曲作りにも参加していたグレン・マトロックを解雇し、後任に抜擢されたのが、元々セックス・ピストルズの熱狂的なファンであった当時21歳のシド・ヴィシャスだった。

イメージ先行、異例の大抜擢は、のちのパンクに対するパブリックイメージをガッチリ固めることになる。

スパイキーヘア、傷だらけの素肌にレザージャケット、破けたジーンズにエンジニアブーツというスタイル。楽器が弾けないことも問題とせず、その破天荒な生きざまばかりがクローズアップされていたというのも事実。そんな彼がヘロインの過剰摂取で夭折したのは1979年の2月2日だった。

エディ・コクランを崇拝していたシド・ヴィシャス

セックス・ピストルズのベーシストなのにベースが弾けないというのが定説だったシド。しかし、実はそんなことはなかったようだ。正確には、弾けないのではなく、弾けなくなったのだ。つまり、ドラッグが純然たる音楽から彼を遠ざけた。

シドの音楽キャリアはドラマーからスタートしている。スージー・アンド・ザ・バンシーズのデビューライブでも彼がドラムを叩いていたのは有名な話だ。そして、ピストルズ加入により初めてベースを手にする。当時のシドの様子について、ジョニー・ロットンはこんな風に述懐している。

「シドはあっという間に楽器を自分のものにした。スリーコードの曲なら演奏できた。シドは一生懸命リハーサルに参加した。俺たちがリハを済ませて出かけてもシドだけはベースの練習に勤しんだ」

シドにとって音楽とは、それ相応の価値観を見出すことの出来る宝物であり、真正面から向き合っていたのは確かなことだ。

そんなシドの十代の頃のアイドルはデビッド・ボウイ。そして、50年代のリアルロッカーであるエディ・コクランを崇拝していた。

78年にジョニー・ロットンがセックス・ピストルズを脱退後、シドがヴォーカルをとるエディの名曲「カモン・エブリバディ」と「サムシン・エルス」がシングルとしてリリースされている。これは、セックス・ピストルズのドキュメンタリー映画『ザ・グレイト・ロックンロール・スウィンドル』のサントラ盤の中でも聴くことができる。

シドがシンプルこの上ないエディの楽曲を取り上げることにより、ロックンロールの初期衝動ともいうべき “エディ・コクランの魂” がパンク・ムーブメントの灯火が消えかけた78年のロンドンで蘇生した。

つまり、シドはロックンロールの中に潜む永遠性を理屈ではなく肌で感じ取っていたのである。ガーゼシャツ、モヘアセーターといった他のメンバーのファッショナブルさとは一線を画すスタイル。革ジャンとジーンズという50年代の「ロッカーズスタイル」をシドがアレンジしている点からもそれは伺える。50年代のロックンロールの本質を継承し、70年代に蘇らせたのは、シド・ヴィシャスに他ならない。

シド・ヴィシャスの生き様がすべて集約された「マイ・ウェイ」

そして、特筆すべきは、あのフランク・シナトラの「マイ・ウェイ」。あえて50年代、ロックンロールの排斥運動の第一人者であったシナトラの名曲をカヴァー。それは痛快なアイロニーだった。

シナトラとは真逆のスタンス、生き急いだシドが、疾走感にあふれるアレンジで皮肉たっぷりに歌い上げる姿はパンクロックに彼の生きざまがすべて集約されている。

 こうして今終わりの時を迎え
 俺は終幕へと立ち向う
 友よ俺ははっきり言える
 確信を持って 俺の生涯を
 伝えることができるんだ
 満ち溢れた人生を生きてきた
 ひとつひとつの道を旅してきた
 そしてなにより
 ずっと自分の道を生きてきたんだ。

シドの歌う「マイ・ウェイ」は、パンクロックのひとつの価値観である刹那性を全面に打ち出し、アンセムとなった。

長きに渡りキャリアを積み重ね、アメリカを代表する歌い手となったシナトラ… 。それとはまた逆の意味でシド・ヴィシャスは人生を全うした。

※2018年2月2日、2019年5月10日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 本田隆

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