北朝鮮、小型漁船の出漁を禁止…木造船の漂着減るか

2015年から2019年にかけて、日本海沿岸に木造船が漂着する事態が相次いだ。海上保安庁の集計では、最も多かった2018年には225件に達していた。その背景には、北朝鮮の漁業奨励策がある。

以下は、金正恩総書記(当時は第1書記)の2015年の「新年の辞」からの抜粋だ。

「水産部門においては黄金の海の新しい歴史を創造した人民軍の闘争気風に学び漁業を決定的に盛り立てて魚の大豊漁を実現して人民の食卓の上に磯の香りを漂わせねばなりません」

それ以降、大々的な漁業奨励運動が繰り広げられ、数多くの漁船が、日本海の漁場に押し寄せるようになった。その中には、遠洋の航海に不向きな小型の木造船も多く含まれており、それが遭難事故と木造船の大量漂着へとつながった。

ところが、新型コロナウイルスの世界的大流行が始まった2020年、北朝鮮の漁業政策は一変した。陸海空の国境すべてを封鎖する方針を取り、漁船の出漁も禁止されたのだ。それにより木造船の漂着も激減したが、昨年からは再び増加に転じた。出漁への制限が緩和されたためと思われる。

ただ、規制は依然として厳しく、多くの漁師が生活に苦しんでいると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、水産省は今月15日、道内の水産事業所に対して、出漁可能な漁船はエンジン出力200馬力以上のものに限るとの方針を示した。これは、昨年末の朝鮮労働党第8期第6回総会での決定事項の一つで、水揚げ量増大のため、各水産事業所で中大型の漁船を中心に再編成せよとの指示が下されたのだ。

これに伴い、高抹山(コマルサン)水産事業所、清津水産事業所など道内の各水産事業所は、200馬力以下の漁船の登録抹消作業を行っている。小型漁船で例外的に登録を抹消されなかったのは、沿岸で貝やワカメを取るごく一部のものに限られた。

別の情報筋によると、清津市内の水産事業所に登録されている200馬力以上の漁船は10隻に過ぎず、うち350馬力の底引き網漁船が2〜3隻、500馬力以上の大型漁船は、清津水産事業所と朝鮮人民軍(北朝鮮軍)傘下の水産事業所に1隻ずつしかない。これにより、ほとんどの漁船が出漁できなくなった。

実は2021年に、100馬力以下の漁船の出漁を禁じる措置が取られたが、小型漁船がはるか遠くの航海まで行ってエンジン故障などで漂流し、日本や韓国に漂着する事件が相次いだ。これが背景となり、今回200馬力以上に制限されたのだ。

漁師たちは、100馬力の漁船でも近海で漁をやってきたのに、それさえできなくする今回の制限はあまりにもひどい、党第8期第6回総会の決定は、人民の生活手段を奪っているなどと非難の声を上げている。

漁に出られなくなった漁師は、山で薪を切り出したり、建設現場で日雇いで働いている。情報筋は、「党の間違った政策で、海を離れてギリギリの生活をすることになったと嘆いている」と漁師たちの反応を伝えている。

北朝鮮は2015年にも、今回と同様の理由で小型漁船の出漁を禁止したが、その後の経緯は不明ながら解禁またはウヤムヤになっている。漁船のほとんどを出漁できなくする今回の措置だが、地域経済や漁師のみならず関連業種で働く人々の生活にも重大な影響を与えるだけあり、今後どうなるかが注目される。

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