昭和の“レコード屋さん”60年変わらずエキマエに…デビュー直後の小泉今日子さんも来店 福井県福井市の「ミュージックショップ日比谷」

JR福井駅前で60年以上営業を続けるミュージックショップ日比谷=福井県福井市大手2丁目

 店先のスピーカーから流れる歌謡曲に誘われるようにガラスの扉を開けると、棚には“絶滅危惧種”になったカセットテープがずらり。CDの棚は演歌が幅を利かせ、懐かしい8センチのシングル盤も並ぶ。店内の色あせたポスターがいい雰囲気で、昭和時代にタイムスリップしたような錯覚に陥った。北陸新幹線延伸に伴う再開発工事で刻々と姿を変えるJR福井駅西口。「ミュージックショップ日比谷」(福井県福井市大手2丁目)はその正面に店を構え、エキマエの栄枯盛衰を見つめてきた。60年以上、ずっと変わらずに。

 音楽を楽しむ手段は、時代と共にレコードからCDやMD、サブスクリプション(定額利用)へと変化してきた。音楽ショップには厳しい時代だ。「お客が来ない日もある。でもなるべく店は開けておかないと。いつ来るか分からないし、店を残してくれた主人に申し訳ないから」。店を守り続ける店主の村田洋子さん(89)は話す。

 ▼潤い求めて

 福井地震から市民が復興を目指す中、現在の地で夫の省三さん(享年79)が創業した。洋子さんと結婚したときにはもう店はあったというから、歴史は60年以上になる。店名は省三さんがつけたため由来は不明だが、「音楽の聖地」として知られる日比谷公園大音楽堂がある東京・日比谷から取ったのだろうと洋子さんは推測する。

 店が繁盛したのは1960年代~70年代。福井駅前は行き交う人々でにぎわい、店は学校帰りの高校生や仕事帰りのサラリーマンで平日も盛況だった。洋子さんの子育て時期と重なったこともあり、多いときには3人の従業員を雇ったほどだ。時は高度経済成長期。「国全体が景気の良い時代。みんな暮らしに潤いを求めてレコードを買ったんでしょうね」(洋子さん)

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 ▼新人歌手も

 「学生のころ、デビューしたての小泉今日子さんが来てくれてね。僕は出かけていて会えなかったんだけど」。高齢になった洋子さんに代わり3年ほど前から、息子の昌之さん(58)が会社勤めの傍ら店を手伝うようになった。昌之さんにとっても、この店での色あせない思い出は多い。

 駅前に飲食店が連なっていた80年代。ギターを手にした流しや、コンサートで来福した歌手が店を訪ねることも多かったという。新人歌手もプロモーションに訪れ、小泉さんもその一人だったとみられる。握手会もあり、歌声や人波に誘われ、店内をのぞく人は多かったそうだ。まちに音楽があふれていた。

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