なぜ「自分のやりたいこと」が答えられないのか?タイプ・価値観を確かめる方法とは

「自分が何をやりたいか」は、今後のキャリアを考える上で重要な判断要素のひとつになります。

そこで、著者・有山徹( @tariyama )氏、監修・田中研之輔( @KennosukeTanaka )氏の書籍『今のまま働き続けていいのか一度でも悩んだことがある人のための新しいキャリアの見つけ方』(アスコム)より、一部を抜粋・編集して自分のタイプ・価値観を確かめる方法について解説します。


「自分のやりたいこと」とは?

「やりたいことをやろう」といわれても、「そのやりたいことが何かわからない」という人がほとんどです。

そもそも、なんでもいいのでやりたいことは何? と聞かれれば、すぐに答えられるはずなのに、キャリアを真剣に考えるときは、なぜ出てこないのでしょう?

やりたいことが見つからない原因は、考える起点がわからないことに尽きます。

漠然と「やりたいこと」を聞かれても、なかなか答えられなくて当然です。

たとえば、野球をやったことがある人に「どこのポジションをやりたいですか?」と聞けば、それなりに答えられるはずです。学生のころにショートを守っていたからショートがいい、あるいは外野は好きじゃないから内野がいい、という具合です。でも、まったく野球の経験がなければ何が得意かもわからないし、どこを守りたいかも思いつかないですよね。

キャリアにおける「やりたいこと」も同じです。考える起点があれば、そこから順を追って考えていけるはずです。考える起点とは、これまでの経験や体験、知識、情報です。

先に述べたとおり、 キャリアとは人生のあらゆるプロセスです。 過去の経験がゼロという人はいませんから、きちんと手順を踏めば誰でもやりたいことは見つかりま
す。注意点は、経験や体験、知識、情報が増えると、やりたいことも変わっていくということです。

変化の時代は、「マルチ・アイデンティティ」になるべきなんです。アイデンティティは1つではなく、いくつあってもいい。常に自分をアップデートするなかで、やりたいことを意識して進化させていくことも大事です。

ここから、実際に自分を知るためのステップを進めていきたいと思いますが、わかりやすく読んでいただくために、サンプルとなる人物を2名設定します。

安田利明さん(仮名) 41歳 人事系会社のIT部門の部長職・業務コンサルタント
山田知美さん(仮名) 33歳 大手家電メーカー 研修担当

このお2人のサンプルをもとに、これから紹介するプロティアン・キャリア戦略の手順について、本全体を通して具体的な例を示していきます。

では、始めましょう。

あなたは「自分発信タイプ」? 「環境適応タイプ」?

まずは、やりたいことに対する心理的なハードルを取り払ってしまいましょう。

今やりたいことが見つからないことに、悩む必要はありません。すぐに見つかる人とそうでない人は、そもそもタイプが違うのです。

キャリア考えるときに、人は2タイプに分かれます。

あなたはどちらでしょうか? 血液型占いのような感覚で自分に当てはめてみてください。

〈自分発信タイプ〉

やりたいことを即答できる人はこのタイプ。自分のなかに問題意識があり、それを解決したいと考えています。

自分のなかに確固たる価値観があるタイプで、物事を判断するときは、自分の内なる価値観に照らして決めていきます。こだわりの強さが信条で、ブレることがありません。責任感と誇りがあり、役割や規律を忠実に守ろうとします。

その性質がポジティブに働く場合は、正義感があり、使命感や責任感を発揮します。一方で、ネガティブに働く場合は、独善的で支配的になることがあります。自分
の価値観が強すぎて、排他的で批判的な傾向が現れることがあります。

頭ごなしに否定されることで強いストレスを感じます。

〈環境適応タイプ〉

やりたいことがすぐに見つからない人はこのタイプ。外部の状況を柔軟に受け入れられます。物事の判断は、まわりの雰囲気や環境の変化を捉えて決めます。まわりの状況を見ることができ、相手を慮ることができます。

人を育成するマインドが高く、人から感謝されることに喜びを感じます。その性質がポジティブに働く場合は、寛容さがあり、肯定的で面倒見の良さを発揮します。

一方で、ネガティブに働く場合は、曖昧で過保護になることがあります。周囲の反応で判断することが多いので、自虐的で逃避的な傾向が現れることがあります。

まわりからの反応がないと強いストレスを感じます。

日本人の場合は小さいころから、まわりに迷惑をかけないように、周囲との調和を重視するようにとの形で教育が行われることから「環境適応タイプ」が多いといわれています。

ただし、はっきりとどちらかに分類されるというものではなく、1人のなかに2つのタイプが共存しているものなのです。どちらのほうが価値観として強く持っているのかということで、タイプ分けしていきます。そして、 大事なのは、どちらが優れているということではないということです。 自分のタイプがわかるだけでも、やりたいこと探しは格段にしやすくなります。客観的に見るには、アセスメントなどを利用するというのも有効です。

やりたいことがないときの2つのヒント

自分発信タイプの人は、そもそもやりたいことがはっきりしています。

一方で、環境適応タイプの人は、自分がやりたいことが明確にわかっていない場合が多いでしょう。その場合には、次の2つの質問でクリアになります。

(1)誰に、何をしてあげたいか?(どうなってほしいか?)
(2)やりたくないことは何か?

たとえば、「親に恩返しがしたい」みたいなことでもいいでしょう。それがキャリア? と思われるかもしれませんが、人生や生き方こそがこれからのキャリアですから、それでいいのです。

子供に幸せになってほしいでもいいし、飲食店を応援したいでも、工場を支援したいでもかまいません。会社で上司の役に立ちたいでも、自らリーダーシップを取りたいでもOK。身近な家族のことでも会社のことでも、社会のことでも、どんなレベル感でもいいんです。環境適応タイプの人は、自分がどうしたいかを決めるのが苦手な反面、何かをしてあげる対象を決めると、やりたいことのイメージが湧きやすいのです。

もう1つの方法は、やりたくないことを考えてみることです。

世の中の画期的な商品や革新的なサービスは、人々のちょっとした不満から生まれることがよくあります。

あるメーカーは、SNSでユーザーの不満をポイントで買い上げる「不満買い取りキャンペーン」をやっていたくらい、不満というのは新しい価値を生み出すパワーになるというわけです。そこで、やりたいことが見つからないときも、やりたくないことから考えてみましょう。

満員電車に乗りたくない。1日中デスクに座っていたくない。そんな簡単なことでもいいのです。あるいは、人に喜ばれない仕事はしたくないとか、環境に悪い商売はしたくないとか、観念的なことでもいいでしょう。まずはそうして考える起点を作ることから始めてみます。

ちなみに、サンプルの安田さんは、 〈自分発信タイプ〉 で、デジタル×組織・人材開発のプロになりたいという目標を持っています。自分がそれを極めることで、多くの人に働き方の効率を上げるテクニックを伝え、誰もがワークライフバランスをとれるような社会を目指しています。

山田さんは 〈環境適応タイプ〉 で、自分を含めた大人がいきいきと働く姿を子供たちに見せることで、その後のキャリアをより自由に選択してくれるようになってほしいという夢を持っています。

「ライフラインチャート」で価値観を知る

さてここからは、自分自身を深堀りしていきます。自分を知るためには、自分がこれまでどのような環境に生まれ育ち、何に興味をもってきたのか、所属してきたコミュニティでどんな役割を担ってきたのかなどを振り返ってみましょう。項目は以下のとおり。

【自己分析シート質問項目】
・父親(祖父)について・母親(祖母)について・自身の兄弟姉妹について
・パートナー(妻、夫)について・子供構成について ・居住地について
・大事にしている言葉について・本について ・映画について
・好きな歌について・没頭した、夢中になったことについて
・嫌いなことについて・集団の中での特性について ・将来について

人は、いろんなものに影響を受けながら成長していきます。それらの影響が、その人の性格や考え方に反映されていくのです。特に、親や祖父母、兄弟姉妹など家族からの影響は大きく、ものの考え方のベースを作り上げています。また、読んだ本やマンガ、そして観た映画やドラマなどからも影響を受けていきます。

さらに、これまでの自分の仕事観や集団での振る舞い、将来について書き込むことで、自分自身の人生を振り返ってみましょう。

このように言語化することは、自分の頭の中から情報を切り離し、客観視するにはとても有効です。 改めて言語にしてみると、なぜ自分がいまここにいるのかを明らかにするヒントが詰まっているかと思います。

次に、ライフラインチャートを描いてみましょう。

ライフラインチャートとは、自分のこれまでの人生において「幸福度」がどのくらいだったのかを1本の線で表現したものです。チャートのヨコ軸は時間(年齢)、タテ軸は自分が感じた幸福度となります。

まずは、生まれてからの幸福度について時系列で点を打ち、線でつないでみましょう。

自分の感覚でいいので、最高に幸福だった場合は100%、最低に不幸だった場合を0%として、その時の幸福度を%で表してみます。それらの点をつないで、幸福度が変化していく様子を線で表します。

参考に、山田知美さんのできごとと、そこから描いたライフラインチャートを紹介します。

チャートとして見てみると、自分がどんなときに幸福感を感じ、どんなときに不幸を感じていたのかをビジュアルで感じることができます。

さらに分析してみると、線が上がっている期間は、あなたが幸福度を増していった時期であることがわかります。なぜ幸福感を感じていたのかを考えることで、あなたの幸せの基準がわかってきます。

逆に、線が下がっている期間は、幸福度を下げていった時期です。こちらも、 なぜ幸福感が減っていったのかを考えれば、あなたが大事に思っていることが見えてきます。 そして、線が上昇に転じたきっかけを分析してみれば、困難をどうやって克服していったのかを見極められます。

新しいキャリアの見つけ方

著者:有山 徹 監修: 田中 研之輔
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