カナダのVIA鉄道、車窓自慢の展望車が「視界不良」になった理由 「鉄道なにコレ!?」(第38回)

By 大塚 圭一郎(おおつか・けいいちろう)

VIA鉄道カナダのウィニペグ―チャーチル間を走る夜行列車=2022年12月31日、カナダ・サスカチュワン州(筆者撮影)

 カナダ中部マニトバ州ウィニペグの玄関口ユニオン駅で、1697キロ離れた北極圏の同州チャーチルまで2泊3日で向かうVIA鉄道カナダの夜行列車に乗り込んだ。ところが列車の最後尾につながれた寝台車は立ち入り禁止になっていた。一方、西部バンクーバーとカナダ最大都市トロントを結ぶ看板列車「カナディアン」は列車の最後尾だった展望車の後ろに無人の客車がつながれ、自慢だった車窓が視界不良になった。それらの理由とは―。(共同通信=大塚圭一郎)

 ▽最後尾車両が立ち入り禁止

 2022年12月にウィニペグで乗ったチャーチル行きの列車は、私が家族の分を含めて予約した2人用個室と1人用個室がともに後ろから2両目の寝台車にあった。この車両は、米国の金属加工メーカーだった旧バッドが1954年に製造した車両番号8229だ。
 最後尾には同じく旧バッド製の寝台車の車番8337を連結していた。8337は2人用個室が6室と8229の2倍ある一方、1人用個室は4室と半分しかない。車内を見学するために扉を開けようとしたが鍵がかかっており、立ち入り禁止になっていた。

VIA鉄道のウィニペグ―チャーチル間で運用される編成の最後尾に連結されていた寝台車=2022年12月27日、カナダ・マニトバ州(筆者撮影)

 他にもカナディアンは22年10月以降、それまで最後尾だった展望車の後ろに無人の客車が連結され、展望車からのロッキー山脈などの流れゆく景色が遮られた。
 これらの理由を調べたところ、安全対策としてカナダ政府が出した命令に基づいていることが分かった。

 ▽ペットの預け入れも停止

 カナダ運輸省は、主に1950年代に造られたVIA鉄道のステンレス製レトロ客車は衝突事故が起きた場合に強度の不安があり、乗客や乗員の安全性に懸念があると判断。対策として2022年10月19日、安全な鉄道運行の脅威となる恐れがある場合に是正措置を命じることができる鉄道安全法32条1項に基づき、衝突が起きた場合の乗客と乗員の安全確保のためにVIA鉄道に対してレトロ客車を連結した列車の最後尾と、機関車の直後にそれぞれ無人の緩衝用車両を連結するように命じた。

VIA鉄道カナダの夜行列車「オーシャン」の最後尾に連結された展望車=2018年6月、カナダ東部ニューブランズウィック州(筆者撮影)

 VIA鉄道の列車が絡む史上最悪の事故は、1986年2月に西部アルバータ州でカナディアン・ナショナル鉄道(CN)の貨物列車と衝突して計23人が亡くなった。
 併せてVIA鉄道は、利用者のペットの荷物車への預け入れも「一時的な運営調整」として停止。というのも、機関車の後ろに連結している貨物車両を無人の緩衝用車両として活用し、飼い主が荷物車両のペットの様子を見に行けなくなったためだ。
 VIA鉄道は緩衝用車両がない状態で運転できるようになる見通しを示せておらず、今後の情勢は視界不良だ。

 ▽あいさつしてくる看板

 筆者が乗った列車は出発時刻の午後0時5分を迎えたが、いっこうに動かない。理由として真っ先に思い当たったのが貨物列車の通過待ちだ。この区間でVIA鉄道は、CNが保有する線路を借りて列車を走らせており、ダイヤは貨物列車の影響を受けやすい。予想が的中し、貨物列車が通過後の午後0時半ごろに約25分遅れで発車した。

すれ違ったカナディアン・ナショナル鉄道(CN)の貨物列車=2022年12月27日、カナダ・マニトバ州(筆者撮影)

 列車はウィニペグ西部の近郊まではカナダを横断する主要路線を走る。この区間は、ウィニペグ駅に停車するカナディアンも通る。
 「スカイラインドームカー」の2階にある展望ドームの座席から窓外を眺めていると、「DOMO(どうも)」とあいさつしてくる看板が視界に入って吹き出した。そこはウィニペグの企業ドーモガソリンが運営するガソリンスタンドだった。

カナダ・ウィニペグにある「DOMO」と記した看板を掲げたガソリンスタンド=22年12月27日、カナダ・マニトバ州(筆者撮影)

 ▽上場企業と赤字国営企業の違い

 続いて路線バスが専用道路を走るバス高速輸送システム(BRT)の「ウィニペグRT」のオスボーン停留所が見えた。ガラス張りの立派な建物で、寒さが厳しい冬でも利用者がバスを待ちやすいように配慮されている。日本では2023年夏、17年の九州北部豪雨で被災したJR九州の日田彦山線の福岡県と大分県にまたがる一部区間がBRTで復旧される。

バス高速輸送システム(BRT)の「ウィニペグRT」のオスボーン停留所=2022年12月27日、カナダ・マニトバ州(筆者撮影)

 ウィニペグは小麦などの穀物の集散地として有名で、沿線には広大な穀倉地帯が広がる。穀物の運搬で一役買っているのがCNの貨物列車で、何本もの列車とすれ違った。
 そんな光景は株式を上場している有力企業のCNと、冬季ならばこの区間を走る営業列車が週4往復だけの慢性的な赤字体質の国営企業、VIA鉄道との業況の違いを映し出す。
 CNは21年12月期決算の本業の損益を示す営業損益で56億1600万カナダドル(約5430億円)の黒字だった。一方、CNのお荷物だった旅客鉄道部門を引き継いで1977年に誕生したVIA鉄道の2021年12月期純損益は3億7050万カナダドルの赤字だった。
 出発から約1時間後にチャーチルなどがある北へ向かう線路に分岐した。ここからは単線になり、家畜で飼われている牛が寝そべっている姿が見えるなど一気にローカル線の色彩が濃くなった。

列車から見えた家畜の牛たちの姿=22年12月27日、カナダ・マニトバ州(筆者撮影)

 ▽走り方がおかしい…

 日が暮れたため個室に戻り、路線図を眺めていると途中でサスカチュワン州を通ることに気づいた。室内のベッドを引き出すために来てくれたサービスマネージャーのジェニファー・ロイさんに「僕はカナダ10州のうちサスカチュワン州だけは行ったことがなく、州内の駅に降りてみたいのです。列車が長く止まる駅はありますか?」と尋ねた。
 ロイさんは「午後9時ごろに着く予定のカノーラ駅で10分ほど停車する予定です」と教えてくれた。
 闇に包まれたカノーラ駅のプラットホームに降り立つと、ロイさんが「サスカチュワン州にようこそ」と“10州制覇”を祝福してくれた。気が利いた返事をしたかったが、雪が降っていて寒く、寝ぼけ眼だったため身震いしながらお礼を言うのが精いっぱいだった。

VIA鉄道カナダのカノーラ駅に停車中の夜行列車=22年12月27日、カナダ・サスカチュワン州(筆者撮影)

 「今年は本当に雪がよく降るわ」というロイさんの言葉を聞いて嫌な予感がしたものの、個室に戻って寝入った。起床したのは翌日の午前6時45分ごろで「列車内でこれほどよく寝られたことはない」と感激したのもつかの間、列車の走り方がおかしいのに気づいた。
 窓のブラインドを開けると辺りは雪で覆われた雑木林だった。案の定、本来の進行方向とは反対へゆっくりと動いていた。平地なので、急勾配を登るためのスイッチバックであるはずもない。
 「もしや積雪のために運転を途中で取りやめるのだろうか」と不安に襲われた…。

 【VIA鉄道の衝突事故】1986年2月に西部アルバータ州で、VIA鉄道カナダの夜行列車「スーパーコンチネンタル」(モントリオール―バンクーバー間、現在は廃止)とカナディアン・ナショナル鉄道(CN)の貨物列車が衝突して計23人が亡くなった。2013年9月には首都オタワの踏切で路線バスとVIA鉄道の列車がぶつかり、バスに乗っていた6人が犠牲になった。
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 ※「鉄道なにコレ!?」とは:鉄道と旅行が好きで、鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」の執筆者でもある筆者が、鉄道に関して「なにコレ!?」と驚いた体験や、意外に思われそうな話題をご紹介する連載。2019年8月に始まり、ほぼ月に1回お届けしています。ぜひご愛読ください!

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