第九十三回「岡大介の歌を聴きながら、少しでも世の中が良くなることを願いたい」

ずいぶん前のことですが、新宿の酒場で友達と飲んでいたら、なにやら、三味線のような音がして、見ると、不思議な弦楽器を持った男の人が立っていました。彼は、「何曲か歌わせてください」と言って、歌い出しました。 その歌は、わたしも知っている、なんたら節とか、まったく知らない昔の歌だったり、添田唖蝉坊(そえだ あぜんぼう・明治・大正期に活躍した演歌師)の歌でした。 不思議な弦楽器は、空き缶をボディにして弦を張った、かんから三線でした。とにかく、その、すべてが素晴らしくて、ぶっきらぼうな感じの歌や声、なにもかもが大変心地よかったのです。 そして、なにかリクエストはと訊かれて、「東京節」を歌ってもらった記憶があります。 わたしは、この曲が好きで、あるとき、友達たちと「警視庁はどこにあるんだっけ?」という話になり、「東京節」を思い浮かべて、「東京の中枢は丸の内、日比谷公園、両議員、イキなかまえの帝劇に、いかめしやかたは警視庁、だから、そこら辺なんじゃない」と答えたことがあります。「なんだそれは?」と友達に言われ、結局どこにあるのか、はっきりはわからなかったのですが。 とにもかくにも、リクエストに応えてくれ、「東京節」を歌ってくれたのは、岡大介さんというミュージシャンでした。 歌が終わった後、CDも販売しているとのことだったので、わたしは、一枚購入しました。それが『かんからそんぐ』というものでした。このCDはものすごくシンプルだけど、グッとくる音楽がたくさん入っていました。とにもかくにもなんだか温かい、このような音楽が、もっと世の中にはびこれば、いい世界になる気がします。どうなのでしょう? そんな風に思っているのは、わたしだけでしょうか? そんなこんなで先日、折坂悠太さんという、現在人気の歌い手の「心」という歌を聴いていたら、なんだか岡大介さんのことを思い出したのです。 「心」という歌は、なんというか、ノスタルジックで、少し芝居がかった感じがあり、これまた大変素敵な曲だったのです。 しかしながら「心」を聴き終わり、すぐ、岡さんの音楽を聴こうと思って、CDケースを開けたら、中身がありませんでした。どこに行ってしまったのでしょう? だれかCD持っていますか? もしかしたら実家のCDラジカセに入っているのでしょうか? そこで今回は、岡大介さんの『かんからそんぐ』を紹介したいと思います。不穏で不景気まみれの状態から早く抜け出さないと、やばいぞニッポン、なんて、わたしごときまでが思ってしまっているくらいだから、本当にヤバい。そんなこんなで、岡さんの音楽を聴いて、少しでも世の中が良くなることを願いたいものです。

© 有限会社ルーフトップ