<社説>農業用水にPFAS 生産物の安全性評価を

 沖縄市にある廃棄物最終処分場内と周辺の地下水から高い値の有機フッ素化合物(PFAS)が検出された。さらに地下水をくみ上げて農業用水として使用している施設のうち1カ所からも、環境省が設定する水環境に関する暫定指針値の5.4倍という値でPFASが検出された。 農作物を介したPFAS摂取の影響は未解明な部分が多い。現時点で農業用水に関する基準がないからといって、今回検出された数値に問題がないとは言い切れない。行政が毅然(きぜん)とした対応を取らずにいると、消費者の不安や風評を招く恐れがある。

 県や沖縄市は生産されている農作物の安全性を評価するための調査を行い、必要があれば農業用水の入れ替えやPFAS濃度の低減措置など対策を講じるべきだ。

 2021年11月に県が廃棄物処分場内の集積地にたまった水を調べたところ、1リットル当たりのPFOSとPFOAの合計値が最大1万ナノグラムの値で検出された。19年には最大2万7千ナノグラムを検出し、環境省の暫定指針値である50ナノグラムの540倍に上った。

 一方で、処分場周辺の地下水や農業用水施設でもPFASが検出されていることについて、県は「処分場が汚染源になっているかは特定できていない」とする。加えて、環境省の暫定指針値は、飲んでも健康に影響を与えないとされる目安を示したもので、法的拘束力のある環境基準値ではない。農業用の使用については指針値もない。

 こうしたことから、県も市も農業用の取水を止める対応は検討していないという。

 だが、PFASは自然界でほとんど分解されないことから「永遠の化学物質」と言われ、環境中や体内に長期残留

することが問題となっている。地下水や散水によってPFASはどの程度農地に移行するのか、土壌中のPFASは農作物にどれだけ移行するのかなど、調査・研究の必要性が研究者から指摘されている。

 処分場周辺にある農業用水施設の水質調査は、住民の求めに応じる形で19年度に始まっている。暫定指針値を超える値が検出された以上、農家の不安を払拭するためにも、まずは農作物に含まれるPFAS量の把握など追加の環境調査が必要だ。

 対応が県や市町村の自治体任せになっている現状も問題だ。環境省と厚生労働省は1月に専門家会議を設け、正式な指針値の設定に向けた議論を始めた。沖縄では米軍基地周辺のPFAS汚染が長く問題となってきたが、ようやく国が動き出した。

 PFASを巡り、海外では水質管理の基準を強化する動きが出ている。日本も水道水や農業用水といった用途別に環境基準値を明確にする必要がある。水だけでなく土壌や食品に関する影響評価を規定し、汚染が確認された場合に迅速な対策が取られるようなルール化を急ぐべきだ。

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