キャリアコンサルタントが明かす、キャリア形成で重要な資本を蓄積する方法

キャリアを形成する上では「ビジネス資本」「社会関係資本」「経済資本」という3つの資本が重要となります。

そこで、著者・有山徹( @tariyama )氏、監修・田中研之輔( @KennosukeTanaka )氏の書籍『今のまま働き続けていいのか一度でも悩んだことがある人のための新しいキャリアの見つけ方』(アスコム)より、一部を抜粋・編集してキャリア資本を蓄積する6つのモデルについて解説します。


「資本」を蓄積することが心理的成功を達成させる

プロティアン・キャリアの戦略は、なりたい自分の状態に対して、現在不足しているキャリア資本を行動することによって蓄積していくことを重視します。

プロティアン・キャリアでは、そのキャリア資本の蓄積の仕方として6つのモデルを設定しています。

○イントラプレナー型(社内で蓄積する)
社内資源を利用しながらビジネス資本を更新し、社内の機会を開き、外部との交流を重ねながら社会関係資本を増やすキャリア

○トランスファー型(転職を前提とする)
企業で働きながらビジネス資本を形成し、あるタイミングで転職し、これまで形成してきたビジネス資本をさらに蓄積しながら、新たな職場で社会関係資本を増やすキャリア

○ハイブリッド型(副業を実践する)
企業で働きながら複数のビジネス資本を蓄積し、異なるビジネス資本との掛け算で、その人にしかなし得ないユニークな市場価値を作っていくキャリア

○プロフェッショナル型(専門性を高める)
1つの専門性を深めてビジネス資本を形成。その専門性に関する新たな知見や動向をキャッチアップしながら、さらに専門性を深化させるキャリア

○セルフエンプロイ型(起業する)
ある組織で形成したビジネス資本、社会関係資本、経済資本を元手に独立し、自分が得意な領域を形成するキャリア

○コネクター型(人と人をつなぐ)
社会関係資本の形成を大切にしながら、人と人をつないでビジネスを生み出したり、人が集まるコミュニティを作ったりするキャリア

いまのキャリアを維持しつつ資本を蓄積するハイブリッド型とイントラプレナー型に対して、転職や起業を前提とするのがトランスファー型とセルフエンプロイ型です。プロフェッショナル型やコネクター型は就業形態にかかわらず、資本を蓄積していくスタイルです。

すぐにはトランスファー型やセルフエンプロイ型に移行できない場合には、ハイブリッド型やイントラプレナー型で資本を蓄積した上で、戦略的に移行していくといいでしょう。並行して、プロフェッショナル型やコネクター型も実践しながら、資本を蓄積していくこともできます。

プロティアンの価値観は「成長」です。自分が成長するために領域を深めるのか、拡げていくのか、戦略を踏まえてキャリア資本の蓄積手段を決定します。

変化の時代には「両利きの経営」が重要

自分の資本を蓄積していくときに、すでに持っている資本をさらに増やしていくべきか、新しい資本を蓄積していくべきか迷うことがあります。もちろん、きちんとしたキャリア戦略を立てているので蓄積すべき資本は明確になっています。しかし、すでに持っているものを増やす「タテ」が先か、新しいジャンルを広げる「ヨコ」を先にするのか、優先順位をつけるのが難しいのです。

ここ数年、経営学では、企業がイノベーションを成功させるためには「知の深化」と「知の探索」を同時に進める「両利きの経営」が重要であるといわれています。つまり、タテもヨコも同時に取り組んでいかなくてはならないということですね。

「知の深化」とは、既存の事業をより成熟させていくことです。業績を挙げている事業において、それをより成長させていくことで企業を安定させることができます。これがタテに増やすということです。

一方で「知の探索」とは、冒険的な新規事業に取り組んでいくこと。既存の事業がいつまでも好調であるとは限らないため、新しい売上の軸となるビジネスを育てていくことも、将来的な経営を安定させるためには欠かせないことです。また、企業のさらなる成長のためにも、多少は冒険的であっても新規事業の開拓に力を注いでいかなくてはなりません。これがヨコに増やすことです。

「自分」という企業の経営者であるあなたも同様で、知の深化で安定を図りつつも、知の探索で新しい可能性を探っていく必要があります。目の前の仕事や専門性にだけ注目していると、どうしても知の深化にのみ力を入れてしまいがちです。

知の探索は、自分でも気付かなかった自分自身の魅力や適性を発見することにもつながります。これがとても重要で、プロティアン・キャリアは「永遠のβ版」と説明したとおり、一度決めた戦略であっても、途中で気付きがあった場合に戦略を変えていくことはまったく問題ありません。むしろ、それこそが「変幻自在」なプロティアンの真骨頂です。

越境学習と越境コミュニティ

ビジネス資本や社会関係資本を蓄積するための手段として、オンラインが浸透した現代において有効なのが、「越境学習」と「越境コミュニティ(サード・プレイス)」と呼ばれるものです。何度もお伝えしてきましたが、変化の時代のキャリア開発で重要なことは、変化を自ら創り出し、その変化に適応していくなかで自己成長を持続的に行っていくことです。

勤務している会社や職場を離れ、まったく異なる環境に身を置いて働きながら新しい体験をすることで、新たな視点や知識を学びます。サード・プレイスというのは、家庭がファースト・プレイス(第1の場所)、職場がセカンド・プレイス(第2の場所)であるのに対し、それらとは関連のない第3の場所という意味です。

具体的には、他社で働いたり、NPO(非営利法人)に出向したりといった「社外留学」や、社外のワークショップや勉強会への参加、ビジネススクールや社会人大学の受講、ボランティア活動などがあります。私もプロティアン・キャリア協会の認定者コミュニティを運営していますが、メンバーは学びの意識が高く、多様性のある場となっていることから、認定者の社会関係資本の蓄積につながっています。

将来の見通しがこれまで以上に不透明になっている現代では、企業の事業活動の中で新しい価値を生み出すイノベーションの重要性が高まっています。社員に対して、社内のマニュアルで学ぶこと以上に、多様な知識と考え方を身に付けてほしいと考えるようになっています。組織に依存せずに自ら学習機会やネットワークを作り出し、自分でキャリアを構築する個人が増えていることで、企業も越境学習に積極的になってきているようです。

こうした背景から、勤めている会社や所属している組織を越え、あるいは業界さえも越えて学ぶことが推奨されているわけです。

興味深いデータもあります。将来のキャリア展望を明るく感じるのは、ボランティアNPO、社外ネットワークのコミュニティに属している人で、社内の限られたコミュニティにしか属していない人は、将来展望を明るく持てないという調査結果も出ているのです。

なお、一般的な越境学習には4つのタイプがあります。

○出向型 (一般的な形態・期間:1か月〜2年ほど)
本業先に戻ることを前提に、一定期間受入企業に勤務するスタイル

○兼業型 (一般的な形態・期間:週2日×3社など)
プロジェクトや専門分野をベースに、複数の企業で同時に働くスタイル

○副業型 (一般的な形態・期間:週4日を本業、週1日を兼業先など)
本業を持ちつつ、週や月ごとに決まった日数・時間数だけ他の企業などに出勤・参画するスタイル

○プロボノ型 (一般的な形態・期間:就業時間後に月2回など)
本業を持ちつつ、平日の夜や休日などを活用して他の企業などのプロジェクトに無償で参画するスタイル

4つのタイプはあくまで基本的なスタイルというだけで、ポイントは「枠」を超えて学ぶということです。社内の学びは、仕事に必要なことだけに絞られがちです。目の前にある仕事をこなすための知識やスキルだけを身に付けて、終わりになってしまうことも多いでしょう。

越境学習のメリットは、転職や起業をすることなく学習できるところにあります。現状のキャリアを継続しながら、新しい学びを得ることができるのです。また、異なる環境で働くことで、自分のキャリアを客観的に見つめ直す機会にもなります。今後のキャリアを考えるときに、自分のやってきたことを違った環境で捉え直すことで、新たなモチベーションを作り出せるかもしれません。学びに行った先で社会貢献の意義を見出すかもしれないし、新たなるつながりを作ることができるかもしれません。

こうした新しい知見、経験は、これまでの「枠」を超えることでしか得られません。知の探索につながる体験となり、場合によっては、知の深化につながることもあるでしょう。

新しいキャリアの見つけ方

著者:有山 徹 監修: 田中 研之輔
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