「皿と向き合ったときに『変わってないね』と言ってくれたら」街の洋食店が再開 自慢のオムライスで“ビル火災禍”乗り越え

街の洋食屋さんが帰ってきました。2022年8月、静岡市の街なかで起きたビル火災によって閉店に追い込まれた「グリルくらもと」。5か月ぶりに再開したお店で味わう変わらない味には店主の想いが込められていました。

JR静岡駅南口から歩いて5分。リニューアルオープンした「グリルくらもと」、もともとは、静岡市葵区呉服町にあった老舗の洋食店です。

看板メニューは、お客さんのほとんどが頼むというオムライス。最高級の生クリームとバターがぜいたくに使い、ふっくらと焼き上げます。酸味の効いたパラパラのチキンライスと味わう、昭和の時代から愛される逸品です。

<グリルくらもと店主 倉本毅さん>

「味は落とせない。なんとか昔と同じでないとまずい」

店主の倉本毅さん。いつ来ても変わらない味を届けたい、36年目の再出発です。

静岡市の山間部、梅ヶ島出身の倉本さん。30歳の時、呉服町に「グリルくらもと」をオープンしました。当時珍しかったフレンチの技術を独学で習得。メニューの一つだったオムライスが評判を呼び、人気を博すと、静岡を代表する街の洋食屋さんとして愛されてきました。

<グリルくらもと店主 倉本毅さん>

「大衆的よりちょっと気取っている、お客さんが特別な日に選ぶのは、グリルくらもとと思ってもらうようなオムライスを作っていかないといけない」

2022年8月、静岡市の街なかで起きた建物火災。夜通し続いた消火活動によって、ビルの地下一階にあった店舗はすべて水浸しになりました。

<グリルくらもと店主 倉本毅さん>

「4~5日後に消防の方とみんなで入って。35年間自慢したいくらい、きれいに使っていた。ぐしゃぐしゃになっている店お見た時に、『終わったな』と思った。店がここで再開できると思えなかった」

<倉本さんの妻 英世さん>

「放心状態のようにテレビの前に座っている背中を見たり、自分の居場所をなくした人のようになっていた。やっぱり彼には料理しかないと思うから」

新しい店舗での再開を決意した倉本さん。5か月ぶりの仕込み作業には、2週間を要しました。

<グリルくらもと店主 倉本毅さん>

「(新しい厨房に)慣れてないです、体が。一つ一つ考えながら、動かなきゃならない。この鍋類からフライパン、グラス、食器類…ずぶ濡れになった店の中で、洗ってきれいになるものだけは救えたから、古い言葉だけど戦友だよね、それだけでも力になる」

長年の相棒と新たな環境で守り継ぐ36年目の味です。

<グリルくらもと店主 倉本毅さん>

「食べに来て違ったものが出てきたら、えっ?て思っちゃうし、店の雰囲気、場所は変わってしまうけど、お皿と向き合ったときに、変わってないねって言ってくれたら」

新生くらもとのオムライスをお客さんはどう受け止めるのか。

<客>

「おいしいね」

「結婚する前はクリスマスのディナーを予約して母といただいていました」

「久しぶりにいただきました。誕生日とかに、主人と2人で来ていたけど、同じです。おいしいです」

「変わらない味でよかったです」

<グリルくらもと店主 倉本毅さん>

「一番の誉め言葉。変わらないのは当然だけど、呉服町ではない自分があるんじゃないかなって少し感じています。南町のグリルくらもとがちゃんと発信できればいい」

大切に守り続ける自慢のひと皿に、新たな味わいを感じさせる第一歩を踏み出しました。

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