<社説>里親解除調査報告 子の権利保障に立ち返れ

 子どもの幸福を実現するため何をなすべきかという課題から避けては通れない。いま一度、子どもの権利保障という原点に立ち返り、行動することが求められている。 那覇市の50代夫妻が5年以上育てていた児童の里親委託を児童相談所が解除した件で、外部有識者による調査委員会が最終的な報告書の概要を発表した。昨年6月の中間報告に続き、子どもを中心としたケースワークの実現を改めて県に求めている。

 中間報告において調査委員会は今後の里親制度・実親の再統合を支えていくための提言として6項目を示し、改善を求めていた。ところが最終報告は「提言はどう実行化・具体化されたのであろうか。その形跡は見えない」と指摘し、改めて提言を列挙した。

 指摘を県はどう受け止めているのか説明すべきである。子どもの養育を巡って里親と実親が対立した不幸な出来事の背景や解決の方向性が提言に示されている。今回の事案に関わった組織、職員は改めて提言と向き合ってほしい。最終報告は「この報告書を読み、是非(ぜひ)未来に?(つな)げてほしい」と記している。子どもにとっての最善策を講じる出発点となるはずだ。

 最終報告の提言の中で「組織的バックアップ・マネジメント強化」を挙げている。児童相談所の現場職員任せにするのではなく、部長や課長らを含む組織全体の態勢強化を求めている。上意下達的な組織風土の改善も挙げた。

 本来果たすべきソーシャルワークが機能不全に陥っていなかったか。調査委員会の鈴木秀洋委員長は補足意見で「現場の職員の負担を減らすのも増やすのも組織マネジメントを行う幹部の力量と知見が問われている」と指摘した。組織の在り方を検証する必要がある。

 今回の事案を通じて、子どもを養育してきた里親の立場が法的に弱いという実情が浮かび上がった。児相は実親の立場を重んじるあまり、里親の意向を軽んじてはいなかったか。最終報告は新たに里親の権利を保障するための法整備の必要性を指摘した。「県子どもの権利を尊重し虐待から守る社会づくり条例」の改正も提起した。県議会、国政にも関わる課題である。議論を進めてほしい。

 最終報告で判明したことがある。昨年1月の里親委託解除後、里親から離された子どもは実親ではなく、別の里親に預けられているという。なぜそのようなことが起きたのか疑問だ。子どもの意向を確認したのか。この過程で子どもは心の傷を負ったはずだ。心的ケアが必要だ。

 最終報告は「本児にとって、なくてよかった経験をさせてしまった事案であると分析している」と記している。

 重く、痛切な分析だ。私たちは「なくてよかった経験」をさせられた子どもの心情を想像できるだろうか。そのことが強く問われている。

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