大学発ベンチャーの「起源」(74) イムノセンス

小さなセンサーで精密医療検査を可能にするイムノセンスの技術(同社ホームページより)

イムノセンス(大阪府吹田市)は大阪大学発の医療検査ベンチャー。2018年1月の設立以来、同大の民谷栄一産業科学研究所特任教授が開発した「GLEIA法」と呼ばれる免疫反応と電気化学反応を組み合わせた独自の免疫測定技術を活用。診療所や在宅、遠隔地、災害現場など様々な医療現場でのリアルタイム検査(POCT)用免疫センサーデバイスの開発に取り組んでいる。

使い捨てセンサーで大型検査機と同等の高感度を実現

「GLEIA」はサンドイッチ免疫測定法の抗体標識に金ナノ粒子を用い、その量を電気化学的に定量することで簡便なシステム構成ながら高い検出感度を実現できるという。電極には微細印刷電極を用い、ラテラルフロー型免疫クロマト構造を採用。その結果、1cm×5cmサイズの使い捨てセンサーに試料液や反応液を滴下し、10分程度という短時間での測定が可能になった。

手のひらサイズの測定器と使い捨て小型センサーの組み合わせながら、大型検査機と同等の高感度(pg*/ml)を達成。これは通常の免疫クロマトの100~1000倍の高感度に相当する。同社はGLEIA法に関する基本特許と、使い捨て小型センサーの構造及び製造方法特許を登録済みだ。

同社が開発する免疫検査デバイスは心不全や塞栓症などの疾患を迅速に診断でき、既存の測定装置よりも小型・低価格・高感度という強みがあるという。同社は2021年8月に体外診断用医薬品製造販売業許可を取得。2022年5月には使い捨てセンサー「GLEIAスティックCRP」と専用測定器「GLEIAベースCRP」の薬機届出を完了している。

*ピコグラムの略。1pgは1グラムの1兆分の1、1mgの10億分の1


相次いで資金調達に成功

2022年11月にはNECソリューションイノベータ(東京都江東区)の人工核酸アプタマー技術とイムノセンスGLEIA技術を融合して「少量の唾液から自身の免疫状態を15分程度で可視化する個人体調管理支援用測定システム」を開発した。2023年度中の実用化に向け、測定データに基づいて個人に適したサプリメントや保健機能食品の摂取、エクササイズなどをアドバイスして体調管理を支援するサービス開発に取り組む。

同社の高い技術力は投資家からも注目されている。2021年3月に大阪大学ベンチャーキャピタル(大阪府吹田市)を無限責任組合員とするOUVC1号投資事業有限責任組合(OUVC1号ファンド)とメハーゲングループ(福岡市)から、総額1億3000万円の資金調達に成功した。

同7月にもMMCイノベーション投資事業有限責任組合を通じて三菱マテリアル<5711>から、シリーズB追加ラウンドでの資金調達を実施している。

2023年にはシリーズB-2ラウンドで第三者割当増資と融資により、総額5億円の資金調達に成功。これにより心血管系を中心とした測定対象のバリエーションを拡充と収益化につなげる。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(感染爆発)で、健康についての関心が高まっている。とりわけ簡易で迅速、精度の高い検査が求められているのだ。イムノセンスが活躍するステージは、ますます広がっていくだろう。

文:M&A Online編集部

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