自動運転EVは地方鉄道の優良なパートナーになり得るか【コラム】

ゆりかもめ台場駅直結のペデストリアンデッキを行くWILLERとBOLDLYの小型自動運転EV「ARMA」

最近、見掛けるようになったニュースが鉄道会社が手掛けるバスの自動運転。鉄道の弱点とされる、駅を降りてから最終目的地までの移動手段を自動運転のバスが受け持ちます。

今回取り上げるのは、京都丹後鉄道(丹鉄)を運行するWILLER(ウィラー)グループが、東京・お台場(港区)で実践中の小型自動運転EV(電気自動車)のデモンストレーション。デモ運行の様子とともに、鉄道にもたらす効果などを探ってみました。

東京・お台場を小型自動運転EVが行く

大型ショッピング施設やホテル、オフィスが建ち並ぶお台場のスポット・ゆりかもめ台場駅。駅と近隣のショッピング施設をつなぐ高架のペデストリアンデッキ上を、前後対称形の小型EVが行きます。

車内にドライバーの姿はなく、完全無人運転。ペデストリアンデッキは歩道扱いで、歩行者も行き交いますが、小型車は人が歩くほどのゆっくりしたスピードで進みます。走行中、クラクションを鳴らすような場面はなく、人の流れを感知しながら安全第一で走行。EVは、周辺のにぎわいに溶け込んでいるように見えます。

WILLERとBOLDLYがフランス製EVを共同運行

小型EVは、WILLERがソフトバンクグループのBOLDLY(ボードリー)と共同でデモ運行します。クルマは、フランスのEVメーカー・NAVYA(ナビヤ)の「ARMA(アルマ)」です。

ARMAのドアは両開きタイプ。ドア上部に東京都とDIC(Digital Innovation Cityの頭文字)のロゴが表示されます

旅行会社と紹介されることも多いWILLERは、高速バスのほか、鉄道は京都府北部と兵庫県北東部をまたぐ丹鉄(企業名・WILLER TRAINS)を運行します。

2023年1月18日~2月6日にお台場で実施中のEVデモは、新しいモビリティの体験イベント「未来を乗りにおいでよ。次世代モビリティのまち体験」の一環として企画されました。

次世代モビリティのまち体験全体を主催するのは東京都と、関係企業で構成するDIC協議会。WILLERのEVバス以外では、中国製の自動運転バス、視覚障がい者をガイドする「AIスーツケース」、ベンチ状の小型自動運転モビリティ「PARTNER MOBILITY ONE(パートナーモビリティワン)」が体験できます。

ショップやホテルで使える割引券をセットして模擬ツアーに

WILLERとBOLDLYのARMAは最大14人乗り(今回は6人乗りで走行します)、最高速度は時速19キロ。警察の許可を得て、ゆりかもめ台場駅からフジテレビ方面に延びるペデストリアンデッキをドライバレスで走行します。

都も加わったデモなので運賃は無料。WILLERは、体験乗車客に近隣ショップやホテルで使える割引券をプレゼントする模擬ツアーに仕立て、乗車の感想などを聞いて次世代モビリティのニーズを探ります。

EVが観光列車に相乗効果!?

ここで鉄道とEVの関係を考えてみます。丹鉄は、「丹後くろまつ号」「丹後あかまつ号」といった観光列車を走らせ、国内外の観光客に人気を集めます。

丹後くろまつ号(写真:鉄道チャンネル編集部)

観光列車の必要条件は、外観やインテリアなど魅力的な車両と車窓に広がる美しい景観、そして列車内や沿線で味わう地域の食材といったところでしょうか。

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丹鉄は、こうした条件をすべて満たします。それでは、現在の観光列車に足りないものは? あえて指摘すれば、下車駅に着いた後、最終ポイントに移動するための二次交通かもしれません。

駅前がそのまま観光スポットというレアケースを除けば、駅から最終目的地に移動するアクセス手段が必要になります。

デザインはスマート、技術的にも自動運転という未来を先取りする小型EVは、鉄道の魅力にプラスアルファの効果を与えます。「EVに乗りたいから、丹鉄沿線を訪れる」。それが丹鉄の戦略です。

EVの将来性を見極める

1月26日のオープニングセレモニーで、池あい子R&D Dept.マネージャーに、丹鉄沿線へのEV展開に向けた考え方を聞きました(R&D Dept.はWILLERの研究開発部門です)。

「もしも、丹鉄の駅から近隣スポットまで自動運転EVで移動できるようになれば、行動範囲が広がり、『EVに乗ってみたい』というお客さまにも丹鉄でお越しいただけるでしょう。EVの将来性を見極めるのが、お台場でのイベントに参加した目的です」

次世代モビリティのまち体験オープニングのフォトセッション。左から2人目が池WILLERマネージャー。セレモニーには小池百合子東京都知事も出席。「新しい乗り物で街の魅力を向上させたい」とあいさつしました

丹鉄の列車から自動運転EVに乗り換え

ここでもう一度、今回のEV運行方法を振り返ります。WILLERは前半で紹介したように、近隣ショップで使える割引券をセットして、模擬ツアー化しました。

割引券でEV乗車に付加価値を付ける手法は将来、丹鉄沿線でEVを走らせる際も十分に応用できるはず。全くの想像ですが、天橋立駅(京都府宮津市)で観光列車を降りたら、駅前で待っている自動運転EVに乗り換え。天橋立を南から北へ、行きはEV、帰りは観光船かレンタサイクルと移動手段に変化が付けば、丹鉄の旅もいっそう魅力的に光り輝くでしょう。

これらを総合すれば、自動運転のEVは丹鉄をはじめとする地方鉄道にとって、優良なパートナーになる可能性大のはずです。

お台場でのデモは2月6日までで、残念ながら既に予約でいっぱい。WILLERは中部圏や関西方面でもEVをデモ運行しているので、興味ある方はホームページをチェックしてみてください。

大阪・関西万博で自動運転バスをデモ

2022年5月に大阪市で開かれた「鉄道技術展・大阪」でデモンストレーションされたOsaka Metroの「ARMA」(筆者撮影)

最後に、もうワンポイント。WILLERと同じBOLDLYをパートナーに、NAVYAの「ARMA」を実証運行するのがOsaka Metroです。

大阪市交通局の民営化で2018年に誕生したOsaka Metroは、本サイトでも紹介させていただきましたが、2025年4~10月、大阪港の人工島・夢洲(ゆめしま)で開かれる「大阪・関西万博」で自動運転バスを走らせて、日本の技術力をアピールする構想です。

Osaka Metroが受け持つのは、参加企業をまとめる役割。NTTドコモ、凸版印刷、日本信号、パナソニックなどパートナー10社の代表企業として、自動運転システムの開発をリードします。2022年12月1日~2023年1月31日の実証実験では、大阪市此花区の舞洲(まいしま)のテストコースで、万博来場者の利用を想定した走行テストに取り組みました。

記事:上里夏生

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