ペット虐待の裁判を傍聴して目の当たりにした虐待者の言い訳…交際相手の猫を殴り殺した大学生、猫の爪と舌を切断する42歳男【杉本彩のEva通信】

裁判の傍聴のため大阪地裁に訪れた杉本彩さん=1月17日

昨年10月、大阪府泉佐野市で、飼い猫2匹を殴り殺傷した大学生(当時21歳)の男が逮捕された。交際相手に促され、動物病院に猫の死体を持ち込んだところ、不審に思った獣医師が警察に通報し事件が発覚した。このように、自ら動物病院に持ち込んだことで事件化した場合、今までの判例を見ると不起訴になる可能性もあると考え、すでに男は逮捕されていたが、当協会から告発状を提出した。告発していると仮に不起訴になった場合、検察審査会に異議申し立てが出来るからだ。しかし、結果的に 起訴処分(公判請求)となり、当協会が望んだ通り法廷での審理となった。

■猫を殴り殺害した大学生

事件の起訴事実はこうだ。大学生の男が、生後半年と3ヵ月の2頭の猫の頭や胸を殴り、殺害した。「自分は犬派だった。鳴き声にイライラし殴り殺した」と容疑を認めた。交際相手と住んでいた自宅には、犬猫あわせ6頭がいたが、これまでに4頭が死んでいる。 当協会は、この事件の公判を大阪地裁で傍聴した。その内容は、ついやってしまったというものではない常習性と残虐性を感じた。大学生の男は、交際相手と同棲していた自宅に一人でいる時に、飼い猫の鳴き声がうるさいと腹を立て、ケージ内に入って猫を左手で押さえ、右手で左側頭部を殴打し脳挫傷を負わせた。その2週間後に猫の左眼球が突出しだし、交際相手から「何したの?」と問われたが暴行を否定。数日後、動物病院を受診したが、その後、終末期の症状となり死亡した。

また、その2ヶ月後、交際相手が不在時に、自宅で就職のWeb面接中、生後4か月の飼い猫を浴室内の箱の中に置いていたが、面接の手ごたえが悪く、鳴き声がうるさかったため苛立ち、猫を左手であおむけに持ち、右のげんこつで胸部や腹部を2回殴打し、肺挫傷を負わせた。猫が死んだと交際相手に連絡をした男は受診することを促されたが、もう体が固まっているから無理だと受診を拒否。朝は元気だった猫が、交際相手が帰宅後には死亡していた。

まず、この公判を傍聴して驚いたのは、その暴力性から想像した人物像に反して、被告人の男の風貌が、高校生にも見える幼い印象だったことだ。色白で華奢な、どこにでもいるふつうの青年のように見えた。男が問われていた罪は、死んだ4頭の猫のうち、事件化した2頭の殺傷だ。そして、この2件の動物愛護法違反に加え、大阪府迷惑暴力条例違反が2件あると知りさらに驚いた。その起訴事実とは、コンビニのバイト後、駅のホームにて、すれ違いざまに18歳の女子高生の太ももの内側を触るという痴漢行為だ。さらに2ヶ月後の朝、バイト先から電車に乗り、高校の制服が可愛いと思い近づいた17歳の女性に、駅のホームにて執拗に追いかけ階段の前で振り返り、女性の太ももを触った後、逃走したが捕まった。

動物の殺傷罪だけでなく、このような卑劣な性犯罪も犯していたのだ。法廷では、6匹いた犬猫のうち4匹が死亡したことや、被告人は、これまでも猫に対しうるさいと怒鳴ったり、ケージの扉を閉める時、大きな音を立てて威圧したことなどが明らかとなった。弁護側からは、情状証人として父親が証言台に立った。父親は、息子には間違ったことをしてはいけないと言ってきたようだが、自分でイライラを押さえられない息子と口論になり、殴られたことがあるという。裁判官から、父として管理監督をし、社会復帰をさせると誓うかを問われると、「もちろん」とは答えたものの、「成人だしコントロールできない」との発言もあった。法廷に呼ばれた意味を考えれば、まったく自覚のない発言だ。おそらく、つい本音を漏らしてしまうほど、父親も手を焼いていたことが窺える。

起訴されている殺傷した2頭の猫は、ペットショップから、それぞれ20~30万円で購入。他の飼育している犬猫もあわせると総額100万円以上になるが、ローンで購入し、まだ支払いが残っているという。ペットを購入するきっかけは、交際相手がSNSで見ていて欲しくなり、安定した収入のない学生の身で、ローンを組んでペットを購入した。後先を考えない衝動買い、その時点ですでに問題は始まっていた。動物が好きだったというが、その好きは、自分が楽しむためのモノに過ぎないのだろう。裁判官から好きな動物に暴力を振るった理由を聞かれると、短気なのと、就活がうまくいかず追い込まれていた、また彼女とのケンカでストレスが限界にあったと答えたが、どれも動物に酷い暴力を振るっても仕方ないという理由にはならない。そして、どの理由にも1ミリの同情の余地もない。

さらに質問は続いた。1匹目がむごい死に方をしているのを見ているのに、その2か月後に同じことをしているのはなぜか。男は苦手な鳴き声でイライラを抑えきれなかったと述べたが、そもそも鳴き声が苦手な人間が、動物を飼い始めたのだから、その選択が無茶苦茶なのだ。社会に出てイライラしたらどうするかとの問いには、ため込まずに親や友人に相談すると答えたが、社会に出たら、さらに大きなストレスを抱えるのは必至だ。短気で衝動的に暴力を振るう人間が、人に相談するという冷静な判断ができるとはとても思えない。それに、父親のさまざまな証言から感じたのは、息子を管理・監督しなければならないのに、その父親と家族の不安定さだった。何がなんでも息子を更生させるという、父親としての強い思いは微塵も感じられなかった。

検察からは、規範意識がないことや、再犯が予想されることから、懲役1年が相当との求刑。それに対し弁護人からは、前科前歴がなく再犯の可能性は低い、22歳で実刑は不利益との弁論があった。何頭動物を殺そうが、何人に痴漢行為をしようが、司法においては初犯という扱いだ。それにはいつも納得がいかない。この事件も初犯であるため、判決は懲役1年、執行猶予が3年だ。再犯させないためには、執行猶予を付けてふつうの社会生活に戻すことだとはとても思えない。ストレスを理由に猫を残虐に殴り殺した男が、ストレスを抱えながら生きるのが当たり前の社会で、今後どんなふうに己を律するのだろうか。 

■猫を虐待「特に理由はない」と述べた42歳の男

そして、同時期に公判が行われていたもう一つの事件は、以前このコラムでも取り上げた。京都に住む42歳の無職の男が起こした猫の殺傷事件だ。ペットショップで次々に猫を購入し、虐待の末に殺した。猫に名前も付けず飼育していたことからも、虐待目的であったことは容易に想像できる。改めてその内容について触れておくと、スコティッシュフォールドの爪18本を爪切りで根本まで切り出血させた。そして、同猫の舌を生きている時に切断。しっぽを掴んで頭上で振り回し、壁にぶつけたことで胸腹部を圧迫。外傷性ショックにより死亡させた。こうした残虐きわまりない方法で5頭の猫を次々に殺害していったのだ。しかし、それに対して故意ではなかったとか、留守中誰かがやったとか、くだらな過ぎて聞いていられない言い訳を並べ、すべてを否認していた。しっぽを掴んで振り回す行為については、猫が目を回してふらつくのが面白かったとの発言があったが、その他についてはこのようなことをした理由は「特に意味はない」 と述べている。

こういう事件が起こる度に思うのは、動物虐待を愛好している人間、命を軽視する人物でも、誰でも簡単に動物を入手できるという問題だ。残念だが、動物を虐待する人間は少なからず存在しているのだから、ペット販売事業者の在り方や法律面においても、変えていく必要性がある。この事件が求刑どおりの量刑となった理由は、2ヶ月間に5匹の猫を殺傷したことにより、動物愛護の気風が大きく損なわれたこと。また、うつ病であったことを理由に情状酌量を求めていたが、うつ病は虐待する理由にはならないこと。そして、執行猶予となったのは、実父が支援を申し出ていること、前科がないこと、もうペットは飼わないと誓っていることだ。しかし、法廷にも出てこない高齢の父親が、適切に支援できるとは思えないし、もうペットは飼わないと誓っても、これはあくまでも本人の意思に委ねられているもので、なんの法的強制力もない。誓いに反して、たとえペットを飼い始めても、執行猶予が取り消されるわけでもない。

前述した大阪の大学生の男の公判では、「あなたに動物を飼う資格はない。もう二度と動物を飼わないように」と裁判官が告げた。しかし、現行法では強制力がないため、また同じことを繰り返す可能性は充分にある。

次の動物愛護法の改正では、このことを踏まえて議論を重ねる必要がある。虐待されている動物や、そのおそれのある動物を速やかに救うことができるよう、それを阻む所有権の一時停止。そして、動物虐待の罪を犯したものには飼育禁止命令も必要だ。今のままでは、動物の尊い命を守り、痛み苦しみから救うことが難しい。また、ペットショップの誰にでも無責任に販売するというスタンスや、たとえお金がなくてもローンで購入できるという販売方法をやめないかぎり、再犯を食い止めることも難しいし、このような事件は繰り返されるだろう。

今回の両事件は、改めてペットショップの在り方が問われる事件である。ペット販売事業者は、自らの利益ばかりを追求するのではなく、無責任な販売が、世の中と動物に与える被害について自覚すべきだ。2つの公判を傍聴して共通に感じたことは、両者とも真の反省がまったく感じられなかったこと。特に、京都の42歳の男については、身の毛がよだつ猟奇的な殺害である。判決では、更正に不安があるため、保護観察処分とはなったものの、再犯の可能性がきわめて高い危険な人物を社会に放つのだ。過去の事件を振り返ってみても、小さな子どもが殺害されている事件の前兆には、必ずと言ってよいくらい猟奇的な動物殺傷の前兆がある。自分の生活圏内に、居てほしくない人物であることは間違いない。(Eva代表理事 杉本彩)

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 杉本彩さんと動物環境・福祉協会Evaのスタッフによるコラム。犬や猫などペットを巡る環境に加え、展示動物や産業動物などの問題に迫ります。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。

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