【連載】World Baseball Classic あの瞬間をもう一度②

今年3月に開催されるワールド・ベースボール・クラシック。第5回となる本大会には20ヵ国のスター選手が「ベースボールの世界王者」をかけた熱戦を繰り広げる。本シリーズでは2006年の初大会から撮り続けているカメラマン田口有史氏が捉えた、代表の母国を歓喜で打ち震わした歴史的な瞬間を紹介する。写真を振り返りながら、感動で泣け叫んだ瞬間、悔しさでうなりを上げた瞬間を思い出そう。

第1回大会の優勝で、キャンプから大きな注目を集めた第2回ワールド・ベースボール・クラシック。ドジャースタジアムで行われた決勝の日韓戦は、今でも語り継がれるベストゲームのひとつとして記憶に残る。

日本で行われた一次ラウンドから数えて2勝2敗。決勝で勝った方がまさにこの大会のチャンピオンという状況で迎えたこの一戦。日本が先制し、引き離そうとするも韓国が粘り強く、9回裏に韓国が同点に追いつき延長戦に。

そして迎えた10回の表、2死1・3塁で打席にはイチロー。キャンプインからの日本中の期待と重圧を一手に受けていたイチローはこの時、出血を伴う胃潰瘍を患いながらも出場を続け、準決勝までの8試合で38打数8安打、打率は.211。得点圏打率においては13打数2安打、.154まで下がっていた。しかし、それまでの不振すべてを覆したのがこの決勝打。

打ったあともイチロー選手をカメラで追っていたため、打球の行方はわからなかった。イチローさんがボールを捉えたということだけは認識して、打球の行方は目視していない。内川、岩村の本塁生還シーンにもレンズを向けていない。イチローの表情を追い続け、一塁ベースを回るこの瞬間に勝ち越しのヒットになったということを理解した。

9回裏に韓国に追いつかれていなければ。イチローがこの大会、好調にヒットを打ち続けていれば、このイチローによる決勝打はなかった。様々な状況が絡み合って伝説の瞬間が生まれた。今回はこの第2回ワールド・ベースボール・クラシック以来の5名のメジャーリーガーが日本代表に参加表明をしている。この時のような痺れる瞬間が再び訪れることを期待したい。

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田口 有史(たぐち ゆきひと)/日系アメリカ人の親戚がいたこともあり、幼少の頃よりMLBに興味を持ち、中学生の頃からよりのめり込む。アスリートになれなかったため写真を始め、MLBを撮りたくてアメリカ留学。そのままフリーランスとして活動をし、30年近くMLBを撮影。全30球団を毎年必ず撮影することを自身に課し、1年の半分近くをアメリカで過ごす。オフィシャル・フォトグラファーとして予備予選なども撮影しているので、おそらく世界で最もWorld Baseball Classicの試合を撮影している。(写真:田口有史)

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