福井県越前市は2月3日、仮想現実空間「メタバース」を活用し、ひきこもりの人らの相談支援を行う「メタバースこころの保健室」を開設すると発表した。アバター(分身)を通じて匿名でコミュニケーションを取れるメタバースの特徴を生かすことで、対面で人に会うことに抵抗がある人も受け入れ、保健師らが悩みごとの個別相談に対応する。東京都の企業との共同事業で、同日に連携協定の締結式が行われた。
越前市は2021年度に複合的な福祉課題に対応する「福祉総合相談室」を設置。ひきこもりに関しては、家族からの相談対応や自宅を訪問するアウトリーチ支援に取り組んできた。だが、当事者が人に会うことができないために支援が滞るケースが多く、22年に設置した庁内プロジェクトチームでメタバース活用の可能性を探っていた。
連携する企業は、デジタルヘルスケア事業の「comatsuna(コマツナ)」(本社東京都)。福井県小浜市出身で福井大学医学部卒の精神科医の吉岡鉱平社長(37)が、アバターを介した医療相談などを展開している。
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「こころの保健室」の個別相談は14日に開始。開設時間は毎週火曜午後2~4時とし、1人50分までの予約制で特設ページから申し込みを受け付ける。相談はメタバースの個室空間で行われ、チャットや音声のやりとりで吉岡社長や越前市の保健師が対応する。
メタバースには、市役所5階の展望ラウンジを模した空間も開設。ひきこもり当事者への接し方や支援メニューなどの情報を掲示し、訪れたアバター同士が交流できるようになっている。7月末まで実施し、効果を検証する。
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協定締結式は市役所で行われ、開設した仮想空間が披露された。山田賢一市長はあいさつで「匿名性が維持された安心できる空間で気軽に相談してもらい、ひきこもりの人や家族が取り残されない環境につなげたい。メタバースは教育や福祉全般に応用できる可能性があり、活用を広げていきたい」と意欲を示した。
吉岡社長は「メタバースは、人類が手に入れた新しいコミュニケーションスタイル。心理的なハードルを軽減して、自発的に自分のことを話せる点で、メンタル領域に互換性がある」と研究の進展に期待を寄せていた。