連載[売り込め新潟・ウィズコロナの東南アジア戦略]<上>狙い続けたタイ定期便新設、知事直接交渉で最後の一押し

タイの格安航空会社(LCC)「タイ・サマー・エアウェイズ」の幹部と面会する花角英世知事(右奥)ら=バンコク(新潟県提供)

 新型コロナウイルスの世界的感染拡大を受けた日本の水際対策が昨年10月に大幅緩和され、「ウィズコロナ時代」の国際交流が始まった。新潟県の花角英世知事は1月10日から15日まで、タイ、ベトナム、シンガポールを歴訪。新潟県内企業団も加わり、成長著しい東南アジア市場で「Niigata」の印象を強めようと売り込んだ。訪問団は「インバウンド(訪日客)拡大」「人的・経済交流の振興」「県産農産品PR」を狙ったが、新潟県の知名度の低さなど課題も見えた。訪問団に同行し、感染禍での海外戦略の展望を探った。(報道部・種岡郁江)

 タイ・バンコクの格安航空会社(LCC)タイ・サマー・エアウェイズ本社。花角英世知事は1月10日、同社に出向き、幹部と向き合った。「新潟空港に来ていただくことを心待ちにしている」。新潟県のスノーリゾートや食の魅力を紹介し、就航を要請した。

 同社幹部も「新潟に飛ばすため、全社挙げて準備を進めたい」と応じ、就航実現への思いを熱っぽく語った。

 同社はその場で3月末〜10月末の夏ダイヤの間、台北経由でのバンコク-新潟線を開設する方針を示した。便数は週2往復を予定。ダイヤは決まり次第、県に連絡するという。

 県は日本人の旅行先として人気の高いタイとの定期便新設を目指し、新型コロナウイルス禍が始まる約3年前から交渉を続けてきた。「何度も日本に遊びに来ているタイの富裕層は日本の地方に目を向けている」(県空港課)として、水際対策が緩和した今がチャンスと交渉の場を持った。花角知事の訪問は最後の一押しだった。

▽「他の自治体に遅れないように」

 実質国内総生産(GDP)成長率が2023年予測で4〜6%と高く、人口も右肩上がりの東南アジア。

 県訪問団とともに11日、ベトナム・ハノイの空港に降り立つと、旧正月「テト」を控え帰省や出迎えの人でごった返し、商用で訪れたと思われるスーツ姿の日本人も多く見かけた。

 行き交う人にマスク姿は少なく、訪問団のメンバーは「活気が日本とは大違いだ」と驚いた。東南アジアの社会経済は完全にウィズコロナに移行していた。

 各都道府県で国際交流が再開する中、花角知事は「成長が特に著しい東南アジアとの交流は、他の自治体に遅れないようにしたい」と強調する。特に県はインバウンド拡大に向け、東南アジアと新潟空港を結ぶ定期便の開設に注力する。

 花角知事は東南アジアから帰国の途に就く際、「今回は面会がかなわなかったが、ベトナムのLCC・ベトジェットエアへの接触も続けていきたい」と意欲を見せた。

 今後の課題は、就航後の路線維持だ。他県も同様に空路開設や再開に向け東南アジアの航空会社と交渉を進めており、新潟県が選ばれ続けるためにはかなりの努力が必要となる。

 県交通政策局の佐瀬浩市局長は「課題はアウトバウンド(日本人海外旅行客)。県民のほか隣県にも利用を呼びかけたい」と戦略を練る。

▽「北東アジアの時代ではない」

 「時代は随分前から東南アジアなんですよ」。長年北東アジアを研究している環日本海経済研究所(ERINA、新潟市中央区)の新井洋史(ひろふみ)調査研究部長(57)は、ハノイの活況を肌で感じ、つぶやいた。ベトナムについては特に「少し前の活気があった頃の中国に似ている」との印象を受けたという。

 かつて新潟県はロシアや中国など北東アジアとの交流を重視した。だが、日本と両国の関係はいま、緊張感が高まる。新潟県の人口減少は止まらず、地域経済も低迷する中、活力ある東南アジアと関係を深めるのは「ごく自然」とする。

 花角知事はウィズコロナを意識し、3年ぶりの海外訪問先に東南アジアを選んだ。知事に随行したある県幹部は「もはや北東アジアの時代ではない。これからは新潟も東南アジアを向かなくては」と力を込めた。

© 株式会社新潟日報社