ボーンベッド周辺で新たな化石層発見。恐竜、ワニ…大型爬虫類の頭骨か。白亜紀のアジア沿岸部にはどんな動物が… 獅子島はまさに「化石の宝島」

白亜紀の大型爬虫類と思われる骨化石。骨が円形に埋まっており、頭骨の可能性がある=2022年12月1日、長島町獅子島

■サラリーマン化石ハンター・宇都宮聡さん

 鹿児島県長島町から依頼された恐竜ボーンベッド調査のため、獅子島に渡って3日目。寒波で崩れた天候は収まる気配がありません。町からは、発掘用の機材を漁船から下ろせないので旅館に待機するよう連絡がありました。

 しかし、これ以上時間を無駄にできません。船長に相談し、機材を運ばず5人の調査メンバーで現場へ向かうことにしました。幣串(へぐし)の漁港を出ると波が次から次に押し寄せてきて、甲板に出ていたわれわれは、ずぶぬれになってしまいました。

 30~40分ほどして、ボーンベッドがある島東部の海岸に着きました。船から岩場に飛び移らなければなりません。ノリで滑りやすくなっています。体勢を整えながら何とか無事に上陸できました。

 満潮時刻が迫っていました。急がなければ、一帯は水没してしまいます。そこで、二手に分かれることにしました。ボーンベッド周辺の調査は私が行い、東京都市大学の中島保寿准教授と学生たちは海岸全体の地質調査を優先させる作戦です。

 目指す海岸は、急な岩場の下にあります。ロッククライミングさながらに5メートルほど下りていくと、2021年11月に発見したボーンベッドの横に大きな岩が見えました。冬の荒波にもまれて岩周辺の砂利が移動し、赤い泥岩の岩盤が露出していました。

 目を凝らすと、恐竜のものと思われる骨化石が大岩の下や後ろ側にも広く露出しているではないですか。今まで砂利に隠れていたのです。ボーンベッドは大岩の周辺を中心にずっと先まで広がっていました。発掘機材があればすぐに岩盤を砕き、化石を取り出せるのに…。

 目視調査をしていると、別の地層を調べていた中島准教授たちの方から歓声が上がりました。どうやら、何かを見つけたようです。

■白い砂岩の中、黒い化石が埋まっていた

 恐竜などの化石がたくさん含まれたボーンベッド周辺の調査をしていた長島町獅子島で、東京都市大学の中島保寿准教授らの歓声が聞こえた方角に、岩場をよじ登って向かいました。50メートルほど離れた南側の地層で、中島准教授と学生たちが必死でハンマーを振るっています。声をかけると、彼らは一点を指さしました。目を凝らすと、白い砂岩の中に、黒い化石が埋まっていました。

 表面には穴がたくさん開いた特徴があり、大型の脊椎(せきつい)動物の骨のようです。円形にへこんでおり、眼窩(がんか)=眼球が入っている頭骨前面のくぼみ=のように見えました。「これは頭骨かも」と指摘すると、中島准教授も「可能性あるね!」とうなずきました。

 ひょっとしたら、恐竜やワニといった大型爬虫類(はちゅうるい)の頭骨かもしれません。同じ地層のラインを目で追うと、骨化石のかけらがバラバラと何点も散らばっています。「ここにもある!」と大騒ぎになりました。新たなボーンベッドの発見です。

 興奮している間に潮が満ちてきました。頭骨と思われる化石を持ち帰ろうと、周辺を懸命に掘り込みました。しかし地層の硬さに比べてもろく、無理に作業すると壊れてしまいそうです。シリコン樹脂で表面を保護したところでタイムアウト。悔しいですが、回収は次に残して撤収です。

 今回、獅子島にはさらに多様な動物が化石として保存されていることが分かりました。白亜紀のアジア沿岸部にどんな動物がいたのかを明らかにする上で、非常に重要な化石産地になったとも言えるでしょう。まさに化石の宝島。引き続き調査に期待がかかります。

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 うつのみや・さとしさん 九州初のクビナガリュウなど多くの大物化石を発見しているサラリーマン化石ハンター。

(連載「じつは恐竜王国!鹿児島県より」)

潮が満ちてきたため、シリコン樹脂で化石を覆って保護する調査チーム=2022年12月1日、長島町獅子島

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