世界最高峰の音楽祭典「グラミー賞」の一極集中受賞はいつから始まったのか?  最も権威ある音楽賞!

グラミー賞―― マーケットに最も影響を与える音楽の祭典

今や年末年始の音楽に関する世界最大のトピックといえば、グラミー賞ということになるのだろうか。年末のノミネーション発表に始まって、パフォーマンスアーティストの発表、そして受賞発表の当日(例年だいたい2月)映像配信… その動向は必ず我々の耳に届くニュースとして世界を駆け巡る。

ノミネーションの基準等含め、様々な賛否両論が取りざたされることもあるが、とにもかくにもグラミー賞はまだまだワールドワイドな音楽マーケットに最も影響を与える世界最大の音楽祭典として君臨しているようだ。

グラミー賞の歴史は既に60数年となるが、その結果によってレコード、CD、配信ダウンロード、サブスク等のセールス・視聴増大につながることがあった。それは主要部門と言われる4つの賞――

■ 最優秀レコード(Record Of The Year)
■ 最優秀楽曲(Song Of The Year)
■ 最優秀アルバム(Album Of The Year)
■ 最優秀新人(Best New Artist)

―― がひとつのアーティスト… あるいは場合によってはひとつの作品に一極集中すると、顕著に表れる。やはり “主要〇部門独占!” とか “最多〇部門獲得!” って、実にわかりやすい煽情的なものがあるし、ニュースを配信する側・扱う側にとっても、大きく大げさになりがちでしょう。

セールス増大に直結する “主要○部門独占”

そう、“主要3部門独占!” 的なニュースが飛びかうと、その後のCD(等)のセールス増大に直結した例は、いくつか思い出すことができる。

ここ10年くらいの比較的最近の例を挙げるならば、2020年のビリー・アイリッシュがとにかく鮮烈だった。なんと史上最年少での最多5部門獲得、しかも歴代2度目の主要4部門制覇。この一極集中っぷりのニュースは、瞬く間にセンセーショナルに世界を駆け巡り、ここ日本でも彼女の知名度は格段と上がった。

まあビリー・アイリッシュの例はおよそ3年前のことなので、読者にとっても直近例ということで記憶に新しいだろうが… ここ20年ほどに広げても、ブルーノ・マーズ(2018年)、サム・スミス(2015年)、アデル(2012年)、エイミー・ワインハウス(2008年)、ノラ・ジョーンズ(2003年)、サンタナ(2000年)あたりは、言われてみれば思い出せるのではないだろうか。

特に主要3部門含む史上最多の9部門受賞という大復活劇を披露したサンタナは世界に感動の嵐を巻き起こし、ここ日本でもアルバム『スーパーナチュラル』の売り上げが3倍増に跳ね上がった。一極集中がセールスに直接的影響を与えた顕著な例といえるだろう。

クリストファー・クロス、TOTO、マイケル・ジャクソンにみる “グラミー一極集中”

ではこういった一極集中受賞という現象が世界を騒然とさせるようになったのは、いつ頃からなのだろうか―― 1970年代までは主要部門での顕著な一極集中現象はほぼ起こっていない。最優秀レコードでロバータ・フラック、最優秀アルバムでスティーヴィー・ワンダーが、それぞれ2年連続受賞という偉業があったりするが。

それは1980年代前半の3つの作品の受賞まで辿ることになる。すなわちクリストファー・クロス『南から来た男』(1981年受賞)、TOTO『聖なる剣』(1983年受賞)、そしてマイケル・ジャクソン『スリラー』(1984年受賞)、それぞれアルバム(及び関連曲)だ。

1980年にデビューしたクリストファー・クロスは、なんと最優秀新人賞含む主要4部門を史上初独占、究極の一極集中を達成。いきなり男性ポップシンガーの頂点に君臨、AORブームのけん引役としてその名を歴史に刻んでいる。

既に日本でも高い人気を誇っていたTOTOは、4枚目のアルバム『聖なる剣』(1982年)をリリース、「ロザーナ」といった大ヒットシングル等で主要2部門(最優秀アルバムと最優秀レコード)含む最多の6部門を受賞。1983年のグラミー賞は、TOTOひとり勝ち的な印象を人々に植え付けたと同時に、その後隆盛を極める “産業ロック” ブームの王者として君臨する。

極めつけは翌1984年のマイケル・ジャクソン。1982年末から1983年にかけて、歴史的名盤『スリラー』(1982年)からのシングルヒット旋風が吹き荒れ、1984年グラミー賞において『スリラー』(及び関連作品)が主要2部門含むなんと8部門を受賞。この8部門はこの時点で最多新記録だった。グラミーでの席巻っぷりひとつとってみても、『スリラー』が史上最高のモンスターアルバムといわれる所以がわかるというものだ。

1980年代大衆音楽におけるいくつかの潮流のひとつを作ったような、エポックメイキングな3つのアルバム―― 画期的なアルバムだからグラミー一極集中となったのか、一極集中となったから潮流を作られたのか… もちろんそれは前者なのだろうが、グラミー受賞は名作をさらなる盤石な名作に押し上げる役割を果たしていた。

1980年代を代表するようなこの3つのアルバム――『南から来た男』、『聖なる剣』、『スリラー』は、一極集中なグラミー受賞を果たしたことによって、名作感に “箔” がついたのは間違いない。

カタリベ: KARL南澤

アナタにおすすめのコラム 背水の陣で臨んだアルバム「TOTO IV」グラミー6部門受賞で大ヒット!

▶ グラミー賞に関連するコラム一覧はこちら!

80年代の音楽エンターテインメントにまつわるオリジナルコラムを毎日配信! 誰もが無料で参加できるウェブサイト ▶Re:minder はこちらです!

© Reminder LLC