ガスが止まり七輪を求めて駆けずり回る平壌の富裕層

北朝鮮の首都・平壌市内の高級マンションでプロパンガスの供給がストップし、大騒ぎになっていると米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)の情報筋は、平壌市民の話として、市内でプロパンガスの供給がまともに行われなくなったと伝えた。暖房や炊事にガスを使う高級マンションに住んでいる幹部やトンジュ(金主、ニューリッチ)は、大騒ぎになっているという。

北朝鮮でプロパンガスは富と権力の象徴だ。1970年代後半から供給が始まり、市内の各区域(日本の区に相当)の燃料事業所が、石油とともにガスの供給を担っていた。ところがその後、石油は全く入荷しなくなり、今では高級マンションで使うプロパンガスだけを供給している。

朝鮮労働党や軍、政府の高官の家には6カ月分の大きなガスボンベが、一般の幹部やトンジュの家には20キロ入りのボンベが供給される。前者は潤沢に使える量だが、後者は4人家族の場合、相当節約して2カ月持ちこたえられるほどの量だという。

ガスは、中国から繋がっているパイプラインの終点である、平安北道(ピョンアンブクト)ピヒョンの白馬烽火化学工場で生産されているが、ただでさえ劣悪な道路が積雪と凍結で通れなくなってしまい、平壌にガスを輸送できなくなったのだ。

それ以外にも、国境沿い地域の貿易会社が中国からプロパンガスを輸入していたが、当局が2020年1月、ゼロコロナ政策の一環として国境を封鎖したことから、輸入がストップしてしまった。

もっとも、一般庶民には何の影響もない。高価なガスなど使えないからだ。

平壌の別の情報筋は、市内中心部の平川(ピョンチョン)区域に住む友人の話として、隣に住む幹部は炊事用にガスコンロを使っていたが、ガスの供給が止まってしまい、友人の家に来て、練炭を使うかまどを借りて炊事を行っていると伝えた。なお、この地域はセントラルヒーティングが行われているため、暖房には問題ないようだ。

かつては「危険」という認識があったガスだが、煤がつくこともなければ、一酸化炭素中毒の心配をすることもなく、経済的に余裕のある人は好んで使うようになった。

しかし供給量が決められており、情報筋も燃料供給所を何度も訪ねて、ガス供給の申込みをしようとしたが、「供給量はもう増やせない」と断られてしまったという。「選ばれし者の都市」である平壌の中でも、カネとコネや地位を持った人だけが使えるものなのだ。

その供給が止まり、練炭や七輪を求めて駆けずり回る幹部やトンジュの姿を見て、ガスなど使えない多くの庶民は「ガスをずっと止めて困らせてやりたい」と、鼻で笑っているとのことだ。

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