“胸もみ痴漢”疑惑の商社マン「個人特定」で大炎上も… “SNS拡散”側に「法的リスク」の落とし穴

電車で居眠りする女性の胸に横から手を伸ばし、死んだ魚のような目でもみ続けるサラリーマン――。

1月、痴漢の瞬間を捉えた動画がTwitterに投稿され「怖い」「きもい」といったコメントが殺到する中、動画に映った男性の“知り合い”だという人物からのタレコミによって、“痴漢男”が大手総合商社の社員であることや、本名、所属部署、家族構成、Facebookのアカウント、家族写真などがあっという間に特定され、大炎上した。

動画は2019年に撮影されたとされるが、現在のところ男性が逮捕・起訴されたという情報はない。

「悪質な行為」として準強制わいせつ罪に該当する可能性

動画には、電車に乗っている男性が、隣で眠っている女性の胸を服の上から数十秒間にわたってもむ行為が映っている。これについて、刑事事件の対応も多い早矢仕麻友弁護士は「迷惑防止条例違反または準強制わいせつ罪に該当する可能性があります」と指摘する。

「迷惑防止条例違反と準強制わいせつ罪との違いは、行為の悪質性にあり、一般的には『服の中』から触った場合には、準強制わいせつに該当する可能性が高いです。

一方、動画の男性は、女性の胸を『服の上』から触っています。しかし数十秒間にわたって執拗にもみしだいている点で、悪質な行為として準強制わいせつ罪に該当する可能性もあります」(早矢仕弁護士)

動画は約4年前に撮影…「時効」問題は

動画は2019年に撮影されたようだが、男性を罪に問うことはできるのだろうか。

「刑事事件には『公訴時効』というものがあり(刑事訴訟法250条)、時効が完成すると公訴(※1)の提起ができなくなります。公訴時効の完成期間は、その罪の定められた刑の重さによって変わり、迷惑防止条例違反であれば3年、準強制わいせつ罪であれば7年で公訴時効となります」(早矢仕弁護士)

(※1)事件の被疑者を裁判にかけるため、検察官が裁判所に申し立てること

つまり事件から約4年が経過した現在は、準強制わいせつ罪に該当しない限り、公訴時効が完成しているということになる。

また刑事事件で罪を問うこととは別に、当時は居眠りしていて気付かなかった相手女性が、今回の炎上によって被害を認識し、男性を訴える可能性も否定できない。その場合は民事事件の「消滅時効」が適用される。

「民事の場合は、不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効ということになり、本件の場合は3年で時効となります(民法724条)。そのため、事件から約4年が経過している現在においては、男性の行為が迷惑防止条例違反に該当するとしても、準強制わいせつ罪に該当するとしても、消滅時効はすでに完成していることになります」(早矢仕弁護士)

仮に痴漢が“事実”でも…SNS拡散は「法的リスクがかなり高い」

眠っている女性の胸をもむとは到底許しがたい卑劣な行為だ。その一方で、逮捕・起訴されていない人物の本名、勤務先、家族構成などの個人情報を拡散することに、法的リスクはないのだろうか。

「個人情報を拡散された人物が、仮に本当に痴漢行為をしていたとしても、『痴漢を行った人物である』として個人情報を拡散する行為は、名誉毀損罪(刑法230条1項)に該当する可能性があります。

また、民事上は不法行為(民法709条)に該当し、個人情報を拡散された男性から損害賠償請求される可能性があります。

よって今回の拡散行為は、刑事上も民事上も責任を問われうる行為であり、法的なリスクがかなり高いです」(早矢仕弁護士)

Twitterでは続報として『“特定”された人物に勤務先の会社が確認したところ、本人は痴漢行為を否定した』との情報もある。拡散は指1本で簡単にできてしまうが、思わぬ代償を払うリスクも大きいので、注意が必要だ。

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