中小企業の「賃上げ」実現には…

TOKYO MX「news TOKYO FLAG」の月1回の企画『マンスリーオピニオン』です。今回は「賃上げ」について注目しました。森田美礼キャスターが取材し、まとめました。

賃上げに関してはユニクロを展開するファーストリテイリングが国内従業員の年収を最大で約4割上げると発表し話題を呼びました。大手企業では賃上げの動きが相次いでいますが、中小企業に勤める人たちからは「ユニクロとか上場企業はいいなと思う。好調な企業はいいが、会社の規模による。売れていないところと普通のところは厳しいのでは」「物価だけ上がって、自分の給料は上がっていない。願わくば上がってほしい」「大企業だと制度が整っているが、中小企業はお客さまありきだと思う。客側が賃上げしないと(中小企業の)賃上げは難しいと思う」など、「賃上げは厳しい」「給料はまだ上がっていない」といった声が多く聞かれました。

日本企業の99%が中小企業ですから、この賃上げをどう進めるかが重要です。

では、会社側は賃上げに対してどのように考えているのでしょうか。日本商工会議所の調査によりますと、半分以上の企業が2022年度に「賃上げをした」または「する」と回答しています。これは2021年の調査と比べると7.6ポイント増加しています。ただ、企業側の内情を見ると「前向きな賃上げ」が3割以下にとどまった一方で、7割以上が物価高や人手不足に対応するための「防衛的な賃上げになる」と回答しています。

実際に賃上げを行った中小企業の経営者と、経済の専門家の2人に話を聞きました。

都内で小中学校の給食事業など扱う企業・メリックスは、およそ200人いる全社員の給料を2023年1月から引き上げました。大高絵梨社長はその理由について「企業がもっているのはやはり人のおかげなので、その人に最大限還元していけるようなビジネスモデルを作ることが本当に重要。先行投資の意味も含め、どんどん還元していけることが重要」と話します。大高社長は人材を「会社の貴重な資源」だと話し、飲食業界の人材流出を危惧しています。そして今回、大高社長が賃上げのために行ったのが"新しい業態への挑戦”でした。もともと給食のメニューを開発するために造った調理場を2020年に完全予約制のレストランに変更したのです。大高社長は「今のビジネスモデルが新たな(賃上げのための)財源プールを作れないのであれば、財源プールを作れるような高付加価値のサービスや商品を作ったり工夫が必要」「中小企業のオーナー企業だからこそ、スピーディーに判断ができると思っている」と話します。大高社長は中小企業の強みは「すぐ行動に移せるところ」として、スピード感のある経営者の判断は大事だと話していました。

一方、第一生命経済研究所の藤代宏一・主任エコノミストは、中小企業が賃上げをするためには「生産性を高めること」と「価格転嫁をすること」が重要とした上で、現在起きている値上げラッシュが賃上げの原資になるのではと分析しています。藤代さんは「(賃上げするには)企業の生産性を高めていくということに尽きる。日本全体で一斉に値上げの波がきていることは、中小企業からすると比較的自社の製品サービス価格を上げやすい環境になっていると思う。ある種、賃上げの原資が確保されつつあるということにもなっていると思う」と話し、値上げの波は中小企業にとって必ずしも悪いことではないと話します。

今回の取材を通して、国などのサポートはもちろん必要であるものの、中小企業側も業態の見直しなど自ら工夫をして、中小企業の強みである"スピード感”をどのように生かしていけるかが重要だと感じました。

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