島原半島デマンド交通<5完> 「安心して暮らせる町に」買い物支援バス創設に尽力・松永裕介さん(33)

買い物支援バス創設に尽力した松永さん=南島原市、Aコープ有家店

 底冷えの昨年12月上旬の朝、南島原市有家町の社会福祉法人「長和会」の施設駐車場。市社会福祉協議会福祉活動専門員の松永裕介さん(33)は「買い物支援バス」に乗車予定の人数と名前、乗車場所を確認し、運転手に声をかけた。「出発しましょう!」-。
 特産の梨畑が広がる急勾配を下り、高齢女性2人の待合場所へ。
 「おらんよ」(運転手)
 「少しバックしてください。車庫にいるかも。あっ、いました」(松永さん)
 「車庫で風よけしてた」(女性2人)
 「検温と手指消毒するからね」。松永さんが2人を招き入れると、車内は笑い声に包まれた。
 この日は男女4人が乗車。「空き家が増えたね」「お買い得は何だろ」「酒のつまみは刺身やね」。世間話に花が咲く。約40分後、目的地のAコープ有家店に到着。「お買い物楽しんで」。松永さんは手を振って見送った。人工知能(AI)を駆使したデマンド交通と異なり、全てがアナログ的。だが、アットホームな雰囲気だった。
 松永さんは有家町出身。大学卒業後、福岡市の認知症対応型通所施設で生活支援員として勤務し、Uターン。今の職場は9年目で生活支援や福祉総合相談、男女の出会いの場のコーディネートなどを担当する。
 買い物支援バス創設のきっかけは、中山間地域に住む高齢者の悲鳴だった。運行半年前の2019年12月、有家町新切地区で二つの生鮮食料品店が閉店。商業施設が集まる沿岸部の市中心部に移動するために、自家用車のない高齢者は経済的負担を強いられていた。
 地区民生児童委員の協力を得て、独居・夫婦高齢者(約30世帯)を家庭訪問。島原鉄道のバス運行本数や利用人数、時間のほか、地元タクシーの往復料金も調べ、島鉄や地元タクシー協会に無料の買い物支援バスへの理解を働きかけた。
 車両や運転手の確保、運行経費は長和会の厚意を得て、20年8月、第1号が発車。「自治体の補助金や支援を得ず、地域で連携できた」
 運行開始から2年余。現在22人が登録。1人当たり月2回のバス利用(3路線月6回運行)のため、「回数を増やしてほしい」と要望が上がるが、人手不足もあり、応えられていない。
 だが、バスの運行を安定的に継続することが責務と感じている。高齢者の笑顔と感謝の言葉が活力源。「利用者が安心して暮らせる町づくりのため、努力を重ねたい」

  =おわり=


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